映画『僕たちは希望という名の列車に乗った』を手掛けたラース・クラウメ監督にインタビューを実施。本作同様、実話を基にした前作『アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男』にふれながら、ノンフィクション作品の持つ魅力や、監督業について話しを伺った。
実話小説を実写化した『僕たちは希望という名の列車に乗った』は、1950年代の東ドイツの高校が舞台。ストーリーは、ハンガリー市民による動乱に衝撃を受けた主人公が、級友たちに呼びかけ“2分間の黙とう”を捧げることから始まる。彼らの純粋な哀悼にも関らず、当時ソ連の影響下に置かれた東ドイツでは、それすらも“社会主義国家への反逆”と見なされる行為だった。激動の時代を生きた若者たちの未来の行方は如何にー。
『僕たちは希望という名の列車に乗った』は、作者ディートリッヒ・ガルスカの実体験をもとにした小説が原作ですが、実写化する上で、まずどのような準備をされたのでしょう?
僕は、この作品を可能な限り忠実な内容に沿って描きたかったので、まず作者ディートリッヒに直接話をきくことからスタートしました。
実は僕がディートリッヒに出会った時には、原作の映画化権はすでに売却された後だったのですが、運良くまだ脚本家が見つかっていない状態で。僕が名乗りをあげると彼は快く映画の製作権を快諾してくれたのです。もしかすると、一向に進まない映画製作に痺れを切らせたディートリッヒが「この男だったら、もう少しスピーディーに映画を作ってくれるかもしれない」と僕にかけてみたのかもしれませんね(笑)
ディートリッヒとの交流は、その後の脚本にも活かされましたか?
はい。僕とディートリッヒは出会った時から非常にウマが合ったので、脚本の執筆作業に入った時も、その良好な関係のまま、彼は僕をサポートしてくれました。僕が書いた脚本には必ず目を通してくれたし、毎度的確なアドバイスもくれたんです。また彼は以前教師として、演劇の授業を担当していた経験もあるので、ドラマツルギーについても深い理解に長けた方でした。残念なことに、ディートリッヒはその後他界されてしまったのですが、彼が熱意をもって僕を支え続けてくれたことは、今でも深く感謝しています
ドラマツルギー
戯曲の創作や構成についての技法。作劇法。戯曲作法。
劇中の登場人物は、原作とは少し変えていると伺いました。監督の身近な人物を取り入れたキャラクターはいたりしますか?
はい。主人公の1人である少年・テオは、実は僕自身を反映させたキャラクターでもあります(笑)僕も若い頃は、サッカーが大好きだったし、女の子にもモテたかったし、パーティーが大好きだった!劇中では、テオが女の子の気を引きたくて、政治的なことを口にするシーンがあるのだけれど、実は僕のエピソードを反映させたシーンでもあるんですよ。まぁ、実際僕は、テオと違って政治的なことに全く興味がなかったんですけどね(笑)
またテオは、物語で起きる“事件”によって、どんどん不利な状況にはまっていってしまうのですけれど、その中でも自分自身に向き合い、成長していく姿というのは、僕自身共感できることが沢山あって。そういった意味でも、彼はまさに僕の分身ともいえる存在に感じています。
『僕たちは希望という名の列車に乗った』は、実話を基にしたシリアスな内容にも関わらず、それを感じさせない登場人物たちのみずみずしい描写が印象的でした。それは意識的に行った演出ですか?
はい。必ずしもという訳ではないけれど、政治的なドラマを描く時というのは、やはりある程度のユーモアや観客がほっと一息つけるシーンて必要だと思うんですよね。でないと、息が詰まってしまうようなヘビーな内容になってしまうから。
ですから、僕は歴史に基づいた政治的要素を描くと同時に、若者たちの恋模様や、思春期ならではの心の葛藤など、観客も自然と共感できる場面を用意しました。だって映画館に行くからには、皆さんに最後まで楽しんで観てほしいですからね。
本作のような “ノンフィクション映画”の魅力について教えてください。
実際に起きた物語、実在した人物がそこにいたということに、やはり大きな価値を感じています。
例えば、国家に背いた生徒たちを描いた今回の物語を “反逆者のストーリー”と括るとすると、人気映画の『スターウォーズ』と同じ物語のジャンルになるかもしれませんよね?(笑)
ただ僕の場合、そこで『スターウォーズ』の主人公のルーク・スカイウォーカーと、ディートリッヒの作品に登場する実在のキャラクターが並べられると、より心にグッとくるのは、間違いなく後者なんですよ。こんなこと言ってしまうと、『スター・ウォーズ』ファンに石を投げられてしまうかもしれないけれど(笑)
何が言いたいのかというと、ノンフィクション作品に登場する人物というのは、独裁政治でだったり、理不尽な環境だったり、とにかく目の前に立ちはだかる壁に対して、“本当に”立ち向かっていける強さを持っているということ。
僕が実際に辛いことがあった時、“僕も頑張ろう”と気持ちを奮い立たせてくれるのは、スーパーヒーローではなく、実際にそういった逆境に立ち向かった人たちのストーリーからなんです。そして同時に彼らは、僕自身に沢山のインスピレーションも与えてくれるんですよ。
前作『アイヒマンを追え!ナチスがもっとも畏れた男』も、50年代のドイツが舞台となるノンフィクション作品でしたね。“戦後ドイツ”という題材を続けて選んだ理由とは?
実は僕自身、その答えが分からないのです(笑)
僕は、自分の出会った何百という物語の中から、これは映画にしたい!と思った作品を映画にしているのですが、これまで手掛けてきた30程の映画作品は、それぞれタイプもバラバラで。次回作なんて、ドイツの政治とは何ら関係ない、ロマンティックコメディを考えているくらいなんですけど(笑)