2013年10月3日(木)から2014年1月19日(日)まで、東京都現代美術館で「うさぎスマッシュ展 世界に触れる方法(デザイン)」が開催されている。
社会がより複雑化した21世紀に入り、デザインも大きな変化を遂げている。絶え間なく消費される「新しさ」を生むデザインとは異なり、社会に対する人々の意識に変化を与えるデザインが、今より重要性を増しているといえるだろう。本展は、そのようなデザインの実践に焦点を当て、高度に情報化された現代社会の様々な要素や出来事を取り上げ、私たちの手にとれる形にデザインして届ける国内外のデザイナー、アーティスト、建築家、21組の表現を紹介している。
中央はマーニー・ウェーバーの「丸太婦人と汚れたウサギ」(2009年)
寓話的な作風。等身大(!?)のうさぎは今にも動き出しそう。
領域を横断して活動する彼らの表現は、私たちが生きる世界を独自の視点と方法で読み込み、時には思いがけない発想で、普段とは異なる手触りをもたらす。視覚だけでない、より総合的な身体的体験を通じて、既存の知識体系や情報伝達のあり方を問い直し、私たちがより能動的に世界と関わる方法を探るきっかけとなることを、この展覧会は目指している。
本展覧会は、共同キュレーターにデザイン史研究における第一人者の柏木博を、アドバイザーとして、商品デザインから子供教育番組まで多岐にわたって活動するグラフィック・デザイナーの佐藤卓、および最先端のテクノロジーからデザインの未来へのミッションを洞察するMITメディア・ラボ副所長の石井裕を迎え、歴史、現在、未来を横断する視点で構成されている。
なぜ、この展覧会が「うさぎスマッシュ」と名付けられたか。それは世界の捉え方が変わってしまうような驚きの体験は、うさぎを追いかけているうちに別世界に足を踏み入れてしまった不思議の国のアリスに例えることができるという発想から。うさぎは私たちをワンダーランドへ誘い、常識的な見方や固定観念に一打(スマッシュ)を与える者の象徴。展覧会タイトル「うさぎスマッシュ」は、そのような世界に対する別の入口への誘いを意味している。
リチャード・ウィルソンの「No Numbers」(2013年)
すれすれまでに満たされたシリコンオイルの鏡に、揺れるように壁が映り込む。
作品に1から21の番号を採番し、また作品名とは別に独自に作品を言語化したキャッチフレーズをつけることにより、スムーズに展示作品を観覧できるようナビゲート。「1000年に学ぶ。戻って住む。忘れない。」という巨大な風景画は、アトリエ・ワンと東京工業大学塚本研究室、筑波大学貝島研究室によるもの。また人類学者、竹村真一/ Earth Literacy Programの「触れる地球」やシセル・トラースによる「においの再現」、東証の株式データをリアルタイムでアルゴリズム化する真鍋大度らライゾマティクスによるプロジェクトなど、社会や環境にまつわる作品が多く展示されている。シセル・トラースは東京やメキシコ、また恐怖を感じたときに男性が発する臭いなど、心地よい香りから時に無意識に避けるような嫌な匂いまで幅広く、また科学的に再現し、更に香りを言語化するなど、新しい方法で香りを表現している。
この秋からMIT(マサチューセッツ工科大学)で講師を務めることが決まっているスプツニ子!も「ムーンウォーク☆マシン、セレナの一歩」を展示。なんとNASAから共作の申し出があり、実現した作品だという。作中の衣装協力はアンリアレイジ、マメ、アンブッシュ、アトリエ スワロフスキー、バオバオ イッセイ ミヤケなど。
アメリカのメディアで広く取り上げられた、ジュディ・ウェルゼインの「ブリンコ」は、メキシコからアメリカへの違法入国者のために作成したシューズ。靴と共に、メディアでの賛否両論の反響を映像として展示しており、このように社会問題や経済がアートを通して、「知る」ではなく「感じる」ことができるのが本展の現代アートとしての大きな価値のひとつではないだろうか。
東京都現代美術館では、アーティストトークやデモンストレーションなど、本展の関連イベントも開催。作品に対する理解や楽しみ方をより深めることができる。プログラムや詳細なスケジュールは公式HPにて発表される。
音声ガイドのヘッドフォンには、全て“ウサミミ”がついているという、ユニークなオマケの演出も。私たちが身を置くこの現代とグローバル化に伴い複雑に絡み続け、混沌とする現代社会を、今一度、俯瞰でもしくは視聴嗅覚の体験を通して体験として感じることができる、この展覧会。訪れるすべての人に驚きと発見が生まれるに違いない。
【展覧会概要】
東京アートミーティング(第4回)「うさぎスマッシュ展 世界に触れる方法(デザイン)」
会期:2013年10月3日(木)~2014年1月19日(日)
開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日:月曜(ただし10/14、11/4、12/23、2014/1/13は開館)、10/15、11/5、12/24、年末年始(12/28-2014/1/1)、2014/1/14
会場:東京都現代美術館 企画展示室
主 催:東京都、東京都現代美術館・東京文化発信プロジェクト室(公益財団法人東京都歴史文化財団)、産経新聞社、東京藝術大学
協賛:ブルームバーグL.P
協力:フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本、ブリティッシュ・カウンシル、プロア財団、ナショナル・アーツカウンシル シンガポール、NECディスプレイソリューションズ株式会社、アジアン・カルチュラル・カウンシル、インターナショナル・フレーバーズ・アンド・フレグランセズ・インコーポレーテッド、信越化学工業株式会社
観覧料:一般1,100円、大学生・65歳以上800円、中高生600円、小学生以下無料
※20名様以上の団体は2割引き。
※小学生以下は保護者の同伴が必要。
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳を提示するとで、その付き添人(2名まで)は無料。
※本展のチケットで「MOTコレクション」も観覧できる。
キュレーター: 長谷川祐子(東京都現代美術館 チーフ・キュレーター)
共同キュレーター: 柏木博 (武蔵野美術大学教授・近代デザイン史専攻)
アドバイザー:佐藤卓(グラフィック・デザイナー)、石井裕(マサチューセッツ工科大学[MIT]メディア・ラボ副所長)
■公式Webサイト:http://www.mot-art-museum.jp