・一方奈緒さんが演じられたマリコという役は、家庭環境が複雑で、すごく繊細な役柄だったと思います。
奈緒:そうですね。私自身、自ら命を絶ってしまう役は、今回が初めてでした。そういった役と向き合うことが怖いなと思っていたので、少し避けて通っている部分もありました。でも、今回原作を読ませていただいた時に、とてつもないパワーを感じて。たくさんの方に原作を含めて、この物語が届いてほしいなと思いましたし、マリコという役を演じることで、誰かにとって生きる力になるかもしれないと強く思ったんです。
・難しい役柄の中で、意識したことはありますか。
奈緒:マリコを演じるなかで1番大事にしたいと思っていたのは、何が彼女にとって“希望の光”だったのかを考えることです。作中で「割に合わない」というセリフがあるのですが、そういった過酷な家庭環境の中で、どんな1日がマリコにとって楽しかったか、幸せだったかっていうところを大切にして、演じたいなと思っていました。
・そういった“光”のようなものが、マリコがシイノに宛てた手紙なのかなと感じました。劇中では、奈緒さんが直筆で手紙を書かれたと伺ったのですが、直筆にこだわられた理由は。
奈緒:手紙を書いてみることで、マリコはどんな時にシイノに手紙を書いたんだろうって考えるきっかけなると思ったので、書かせてもらいました。実際に書いてみると、あ!これシイノに伝えたいなと思ったりして、書いている時間ってマリコにとって、きっとすごく幸せな時間だったんだろうなと感じました。
一方で、手紙を書こうとして書けなかった日もあって。マリコにもそういう日があったんじゃないかな、本当に言いたいことを消しゴムで消してしまった日があったんじゃないかなとか思ったり。そういう彼女のバックボーンを感じるにも、手紙を書くという作業は、演じる上での助けになったなと思っています。
・お2人とも、“新たな挑戦”となる役柄であったと思いますが、そんな中でもお互いに、ここは役と重なっているなと思う部分はありますか。
永野:うーん…奈緒ちゃんの繊細な部分は、マリコと重なる部分があるかもしれないですね。奈緒ちゃんはすごく人に優しさを与えられる人だと思っていて、だからこそ自分が我慢してしまうところもあると思うんですよ。そういった繊細な部分は見ていて守りたいって思うし、演じている中でシイノとしても、それは永野芽郁としても思う部分があったので、そういったところかなと思います。
奈緒:作品の中で、シイノがマリコに怒るシーンがあります。それは、マリコが自分を大事にしていなかったから。芽郁ちゃんも人のために怒ることができる人だと思うんです。もし私が自分を大事にしてなかったら、芽郁ちゃんも同じように、私よりも先に泣いて怒るかもしれない。そういったシイノの芯の強さや人のために行動できる部分だったりが、芽郁ちゃんと重なるところだと思いますね。
・プライベートでも親友のお2人ですが、お互いのここがすごいと思う部分はありますか。
永野:奈緒ちゃんは、優しくて温かくて繊細で…でもその中に強さがあって、奈緒ちゃんのそういった人柄がいつも役に反映されていて、すごいなと思います。今回演じられたマリコも、ただの悲しい子に見えないというか、背景に彼女が背負う人生がしっかりと見えて。やっぱりそれは、奈緒ちゃんの“強さ”が反映されているからこそで、お芝居なんだけど、お芝居に見えないその自然さに、俳優としてもすごく刺激を受けています。
奈緒:「半分、青い。」の時もそうですが、芽郁ちゃんは今回も座長として、とても大きな器でみんなを受け止めてくれました。だからこそ、私たち俳優部は思いっきりそこに飛び込んでいけたし、思いっきり演技ができたと思っています。きっといろんな責任を抱えて大変なこともあると思うのですが、どんな時にも包み込んでくれて感謝していますし、心から尊敬しています。
・お2人は、シイノとマリコに負けないくらいの強い絆で結ばれているんですね。
永野:そうですね。シイノとマリコは、友情っていうものを超越した、特殊な関係ではありますけど、私たちもまた違った形でこれからもずっと一緒にいるんだろうなと思います。
・“強い絆”という部分でいうと、シイノが命を賭けてマリコの遺骨を奪いにいくシーンが印象的でした。そのように人生をかけても、守りたい存在はいらっしゃいますか。
永野:人生をかけて守りたい存在…。難しいですけど、そうなると自分ですかね。自分のことを守れない人は、他の人のことも守れないと思うので、まずは自分のこと大切にしたいなと思っています。
奈緒:同感。私もずっと守りたい存在は家族だと思っていたのですが、家族の幸せってなんだろうって考えた時に、私が幸せでいることがすごく大事だなと最近気づいたんです。
例えば、私は母と一緒に暮らしているのですが、私が疲れて帰ると、母もなんか疲れているんですよね。なんで元気がないんだろうって思った時に、あ、私が疲れているからだ、私が元気ないからお母さんも元気なくて、私が笑うと笑ってくれるんだって思ったんです。人間関係って自分の内面を映す鏡のようなものだと思うので、大切な人を守るためには、まず自分が幸せにならないといけないと思うようになりました。
永野:うんうん、自分のことを満たすことができて初めて、相手のことも深いレベルで気遣うこともできるよね。だから私の一番の味方は、いつも私でありたい。人を傷つけたり、救ったりするのも結局人だと思うんですけど、相手に何かを期待する前に、まずは自分のことを励ます人間であれたら、凄く素敵だって思うので。またこれから年を重ねて経験をつむことで考え方も変わっていくこともあると思いますが、私は今の自分にとって最善な選択を選んでいければと思います。
映画『マイ・ブロークン・マリコ』
公開日:2022年9月30日(金)
出演:永野芽郁、奈緒、窪田正孝、尾美としのり、吉田羊
監督:タナダユキ
脚本:向井康介、タナダユキ
原作:平庫ワカ『マイ・ブロークン・マリコ』(KADOKAWA)