1221年、イタリア・フィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ修道院に務めるドミニコ修道僧士が、自ら栽培した薬草、花を使い、修道院内にある薬局で薬剤・軟膏・鎮痛剤を調合したことが始まり。
サンタ・マリア・ノヴェッラ(Santa Maria Novella)は、世界最古の薬局としても知られるブランド。“香りの芸術”と称されるフレグランスをはじめ、天然栽培の草花や天然油脂を用いて伝統的レシピで作るスキンケア・ボディケア、食品、インテリアなど幅広いプロダクトを取り扱う。
サンタ・マリア・ノヴェッラはヨーロッパの歴史と深い結びつきがあり、メディチ家、ナポレオン、歴代の王侯貴族たちから愛され続けてきた。現代でも多くの作家、俳優など著名人にもファンが多い。
ブランドの代名詞とも言えるのが、“王妃の水”と称されるオーデコロン「アックア・デッラ・レジーナ」。“オーデコロンの起源”とされるサンタ・マリア・ノヴェッラに残る最も古い香りで、1533年にカテリーナ・ディ・メディチがヴァロワ朝フランス王アンリ二世のもとへ嫁いだ際持ち込まれ、その後ブルボン王朝の貴婦人の間で大流行した。
スキンケア、ボディケアといったプロダクトへのこだわりは多岐に渡る。歴史と伝統に裏付けされたレシピや、人の手も時間も惜しみなくかけること、一切の動物実験を行わないことなど、ドミニコ修道僧士が作り上げてきた手法や哲学を脈々と受け継いでいる。
イタリア・フィレンツェの本店は、まるで美術館のように重厚な造りで観光スポットとしても人気。ずっしりとした重い扉を開けると、フレスコ画に彩られた天井、大理石のアプローチ、16世紀に使用されていた薬局製造器具などが来店者を出迎える。
1221年、後にサンタ・マリア・ノヴェッラ教会へと発展する小さな修道院で、2人の修道士が医薬的介護を始め、製薬活動をスタート。
1381年には、現代も販売している「ローズウォーター」が既に発売されていたという文献が残っている。当時の記録によるとローズウォーターは消毒効果があると信じられており、ヨーロッパ全土でペストが流行した際には家の殺菌にも使われたと伝えられてる。現存する最古の薔薇水とも言われている。
1542年、独立した帳簿が作られ、薬に精通した信徒が薬局の責任者に任命される。
1612年、正式に薬局として認可される。薬局の初代薬局長はフラ・アンジョロ・マルキッシ。彼はトスカーナ大公メディチ家のフェルディナンド2世からの信望も厚く、聖職者でありながら植物学、科学的な知識を駆使し、研究所としての名声を高めた。
17世紀には、イタリア以外の国々でもサンタ・マリア・ノヴェッラの商品が販売されるほど著名に。フィレンツェを訪れる旅行者にとって必ず立ち寄るべき場所になった。当時人気があったのは香水、クリーム、ソープで、その多くを現代でも手に入れることができる。
17世紀~18世紀、薬局を指揮したフラ・アンジョロ・パラディー二は、修道院の外観も含め大規模な改修を行う。
後任のフラ・コジモ・ブチェッリは外科医であると同時に学者としても優れた人物で、様々なプロダクトの生産が可能になり、製品ラインナップが豊富になる。中でも「リキュール・アルケルメス」が健康維持の薬として大成功を収めた。この時期に輸出先が中国まで拡大していたという記録が残されている。
19世紀、イタリアを制圧したナポレオンにより修道会自体の活動が制限され一時閉鎖に追い込まれる。しかし病気治療における薬剤の必要性が認められ、地代をフランス政府に払うことを条件に薬局は活動を再開。その後、複雑に絡み合う宗教と政治の世界をくぐり抜け、薬局が修道会から独立することになり、信徒たちの手によって現代まで脈々と運営されることになる。