企画展「内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙」が、東京・上野の国立西洋美術館にて、2024年6月11日(火)から8月25日(日)まで開催される。その後、北海道の札幌芸術の森美術館に巡回する。
中世ヨーロッパにおいて写本は、キリスト教の信仰を支えるとともに、知の伝達を担う主要な媒体であった。印刷技術のなかった当時、写本は、羊や子牛といった動物の皮を薄く加工して作った紙に、人の手でテキストを筆写することで制作された。制作に膨大な時間と労力を要する写本は、時に贅沢な品となり、しばしば華やかな彩飾が施されている。
企画展「内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙」は、書物の機能と結びつき、文字と絵が一体となった彩飾写本の世界を紹介する展覧会。国立西洋美術館初の大規模写本展となる本展では、聖書や詩編集、時祷書、聖歌集など、写本の役割と装飾の特徴に光をあててゆく。
本展の軸となるのが、国立西洋美術館の「内藤コレクション」である。国立西洋美術館は2015年度に、彩飾写本の蒐集を続けてきた内藤裕史より、写本から切り離された1枚ごとの紙葉「写本零葉」をはじめとするコレクションの寄贈を受けた。その後も2020年にかけて、新たに26点の写本零葉を収蔵している。会場では、内藤コレクションを中心に、国内の所蔵品を加えた約150点を展示する。
全9章のうち1章では、聖書に着目。聖書は、中世ヨーロッパにおけるもっとも重要なテキストであり、数多くの写本が制作されている。内藤コレクションで聖書写本の中心となるのが、13世紀のイングランドやフランスで制作された作例である。とりわけ、内藤コレクションを代表する《聖書零葉》は、「創世記」冒頭を示す大きな物語イニシャルが特徴だ。
2章で取り上げるのが、「詩編集」だ。旧約聖書を構成する「詩編」は、神の栄光を讃える詩からなり、古来キリスト教徒の祈りにおいて重要な役割を担ってきた。この「詩編」のテキストに、聖歌や祈祷文などをあわせて収録したのが「詩編集」である。会場では、一般信徒の私的な礼拝に用いる祈祷書として人気を集めた詩編集の零葉を目にすることができる。
3章では、聖務日課のための写本を紹介。聖務日課とは、修道院や教会の典礼の基本となる礼拝であり、この際に唱えられるテキストを収めた書物が聖務日課書だ。また、聖務日課で使用された聖務日課聖歌集や典礼用詩編などは、集団で参照するため大きな判型を持ち、しばしば大型イニシャルといった華やかな装飾を伴う。本展では、華やかな聖務日課書や、大ぶりなイニシャル挿絵を持つ典礼用詩編集などの零葉を展示する。
後半の6章で焦点を合わせるのが、中世においてもっとも多くの写本が制作された「時祷書」だ。一般信徒は、聖職者や修道士の聖務日課に倣い、私的な礼拝を行っていた。この時に用いられたのが、時祷書である。王侯貴族や高位聖職者の注文を受けて制作された時祷書の写本のなかには、有名な画家が挿絵やページ余白の装飾を手がけた、豪華な作例も見られる。会場では、「中世のベストセラー」ともいえる時祷書の、さまざまな零葉を公開する。
企画展「内藤コレクション 写本 — いとも優雅なる中世の小宇宙」
会期:2024年6月11日(火)〜8月25日(日) 会期中に一部作品の展示替えあり
会場:国立西洋美術館 企画展示室
住所:東京都台東区上野公園7-7
開館時間:9:30~17:30(金・土曜日は20:00閉館)
※入館はいずれも閉館30分前まで
休館日:月曜日(7月15日(月・祝)、8月12日(月・振)・13日(火)は開館)、7月16日(火)
観覧料:一般 1,700円、大学生 1,300円、高校生 1,000円、中学生以下 無料
※心身障害者および付添者1名は無料
※大学生、高校生、無料観覧対象者は、入館時に学生証、年齢の確認できるもの、障害者手帳を要提示
※観覧当日にかぎり、本展観覧券で常設展も観覧可
■同時期開催
小企画展「西洋版画を視る—リトグラフ:石版からひろがるイメージ」
会期:2024年6月11日(火)〜9月1日(日)
会場:新館 版画素描展示室
■巡回情報
・北海道会場
住所:2024年9月7日(土)〜9月29日(日)
会場:札幌芸術の森美術館(北海道札幌市南区芸術の森2-75)
【問い合わせ先】
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)