心がけるのは「自分を消すこと」

演じることに魅了される理由はなんでしょう？

横浜：難しい…。

吉岡：難しい質問ですね。私は、女優になったきっかけが裏方の人たちの仕事をエキストラ目線で見たっていうのが大きかったんです。もともと映画が大好きだったのですが、見ていると一瞬で過ぎてく時間を、裏ではこんなに時間をかけて撮っていたんだというのを見て、カルチャーショック受けてしまいまして。

多くの人の力が集結した時に、初めて大きなものになる仕組みやプロセスがすごく好きなんだと思います。1人では何もできないけども、手を取り合って真剣に取り組んだ時に、人に感動を届けられる可能性が生まれる、そんな所にロマンを感じました。だからこの活動が好きだし魅了されています。

どんな役柄だとしても演じることは楽しいと感じますか？

横浜：楽しいです。辛いこともありますが、他の人の人生を生きていられるというのは普通では経験できないから。自分にこんな感情が芽生えるんだ…とか、普段の自分だったら得られない感情だな...と思う事が多い。作品や役に色々教えてもらえるので、すごく幸せだなと思います。

だから役者は「責任を持てて自分にはこれしかない」と思えるものです。

作品で常に心がけていることがあれば教えてください。

吉岡：自分が参加した作品は誰がなんと言っても1番のファンでいること。自分が1番好きでいることです。作品を選んだ瞬間からもうそのスイッチが入ります。

横浜：僕は責任、覚悟を持つこと。あとはできる限り自分を消すことです。

自分を消すとはどのようなことですか？

横浜：僕は普通の日常生活を生きている人と比べて経験が浅いと思うんです。自分の経験だけでは限界があるなっていうのを今、感じています。

吉岡：意外。そうなんですか？

横浜：はい。だからこそ、役を自分に引きつけるよりかは、役に寄って、役として生きた方が自分には向いています。演じるのは自分なので、絶対自分の部分は出ていると思うのですが、なるべく自分を消して、その役として誰よりも理解して生きることを大事にしています。

先ほどの経験が浅いというのは、普段のご自身の経験を指していますか？

横浜：そうです。僕はこれといった趣味もなく、大学に通ったり、一般的な会社で働いたりと、多くの人々が何気なく持っているような経験がありません。そんな人生を歩めていないにも関わらず、その経験を持つ多くの人々に作品を届けないといけない。受け取ってくださる人々の心をちゃんと理解できてないことに浅さを感じるし、表現の幅にも限界を感じてきています。それで最近は街の人々の表情やしぐさを観察するようになりました。

吉岡：経験に関して、私は表裏一体なのかなと思っていて。中にはたくさんの人生経験があるからこそ考え方が凝り固まってしまう人もいると思うんです。「これはこういうものだから」というように。

むしろ、例えば何か悩み相談をしてる時、その議題に対する経験が豊かでない人の言葉の方が “すっと”頭に入ってきたりする事が私はあるんです。ピュアで余白があるからこそと言いますか。

横浜：なるほど、確かにその側面はありますね。

吉岡：ある種、抜けているところ、知らない事がある中で一生懸命に学ぼうとする方が良いこともきっとあるなと思います。

横浜さんと共演して、すごい役者さんだなと思ったのは余白があるところが大きいんです。知らない事も手探りで悩んで、どんな人だろう？と一緒に悩んでくれることで心が動くし、本当に良い役者さんだなと思いました。

【作品詳細】
映画『正体』
公開日：2024年11月29日(金)
監督：藤井道人
脚本：小寺和久、藤井道人
出演：横浜流星、吉岡里帆、森本慎太郎、山田杏奈、前田公輝、田島亮、遠藤雄弥、宮﨑優、森田甘路、西田尚美、山中崇、宇野祥平、駿河太郎、木野花、田中哲司、原日出子、松重豊、山田孝之
原作：染井為人「正体」(光文社文庫)