是枝裕和監督の映画『万引き家族』 が、2018年6月8日(金)に全国で公開された。日本では全国329館で公開され、週末(6月8日~10日)の全国興収ランキングで初登場第1位を記録。第76回ゴールデン・グローブ賞においては、外国語映画賞にノミネートされた。
描くのは東京の下町に暮らす、平凡で貧しい家族。一見どこにでもいそうな彼らは、「犯罪」で生計をたてひっそりと暮らしている。「犯罪」でしかつながれなかった彼らの、不完全だけれど愛すべき「家族のかたち」と、心揺さぶる衝撃のストーリーが映し出される。
是枝監督の代表作と言えば、柳楽優弥がカンヌ国際映画祭で最優秀主演男優賞を受賞した『誰も知らない』。子供を置き去りにした母の代わりに、過酷な状況下で弟妹の世話をする長男の姿をリアルに描いた。その後も、取り違えられた子供をめぐり究極の選択を迫られる2つの家族を映した『そして父になる』や、海の見える街に暮らす姉妹たちの織り成す家族の絆を描いた『海街diary』など、さまざまな「家族のかたち」を追い続けてきた是枝監督。
『万引き家族』には「血のつながりについて、社会について、正しさについて、10年間考え続けてきたこと」の全てを込めたと語っている。そんな是枝監督に、『万引き家族』のテーマや演出について、話を聞いた。
新作『万引き家族』はどのようなきっかけで作られましたか。
直接的なきっかけは、既に死亡している親の年金を、家族が不正受給していた事件を知ったことです。「犯罪でしかつながれなかった」というキャッチコピーが最初に思い浮かびました。
どのようなテーマで作ったのでしょうか?
「血縁が無い中で人って家族が作れるのだろうか?」という問いについて考えてみたいということでしょうか。血のつながっていない共同体をどう構築していけるか、ということですね。特に震災以降、世間で家族の絆が連呼されることに居心地の悪さを感じていて。だから犯罪でつながった家族の姿を描くことによって、“絆って何だろうな”、と改めて考えてみたいと思いました。
家族とは何かと考える話でもあり、父親になろうとする男の話でもあり、少年の成長物語でもあります。
今回の『万引き家族』は、社会に対する違和感や憤りのようなものが強く表れていたと思います。
作っている時の感情の核にあるものが、今回は「喜怒哀楽」の内の「怒」だったんだと思います。怒りの感情で作られた作品は、やはり強い作品になりますよね。
あとは、 安藤サクラさんの芝居が僕の考える以上に、良い方向でエモーショナルだったから切実に見えたのかもしれません。サクラさんに対して意識的に、感情が表れるようなシーンをいくつか作ったところはあります。
具体的にはどのようなことでしょうか?
普段はアドリブを要求するようなことはあまりないのですが、台本に何も指示を書かないまま撮影したシーンがあって、キャストには役としてその場で考えて答えてもらうようにしました。
例えば、取り調べのシーン。刑事役の池脇千鶴さんや高良健吾君には、ホワイトボードを使って「こういうことを聞いてみて」とその場で伝え、それに対して受け答えるリリー・フランキーさんや安藤サクラさんは、次に何を聞かれるかわからない状態。刑事の質問に対して、役として考えて答えてもらいました。
子役2人の自然でリアルな表情も印象的でした。どのように演出をされたのでしょうか。
子供には台本を渡さずに、言葉のやり取りのみで演技をしてもらっています。子供に関しては、オーディションの時から台本を渡さない前提で選考を行っていて、台本が無い方が上手に演技できる子をキャスティングしました。ここ15年ほどはずっとそうしてきていますね。もちろん台本そのものは書いているのですが。
“家族”や日本映画についての是枝監督インタビューはこちら>>
日雇い仕事の父・治役にはリリーフランキー。是枝監督作品には『そして父になる』で庶民的な父親を好演して以降、『海街diary』、『海よりもまだ深く』と出演が続いている。4回目の参加にあたり「独特の穏やかで澄んだ空気感の中、本作は社会や人にとって、とても重大なのに、ほんの1日で黙殺されてしまうような出来事にフォーカスを当てていく。是枝監督らしい、いい作品になると感じています」と意気込みを語っている。
祖母・初枝役には、こちらも是枝作品の「家族」には欠かせない存在である樹木希林をキャスティング。また共に是枝監督作品には初参加となる安藤サクラが妻・信代役を、松岡茉優がその妹・亜紀役を演じる。
実力派のキャストが揃う中、オーディションで選出された子役2人にも注目が集まる。息子・祥太役に城桧吏、一家が面倒を見ることになる少女・じゅり役には佐々木みゆが抜擢。みずみずしい表情や仕草を引き出すため、子役には台本が渡されていない。監督に「オーディションで出会ったふたりの子どもたちが本当に素晴らしく、毎日ワクワクしながら撮影に臨んでいる」と言わしめる演技には期待が高まる。
松岡茉優演じる亜紀が働くJK見学店の常連客「4番さん」役は、池松壮亮が務める。主人公一家の「仕事」を捜査する刑事役に、高良健吾と、池脇千鶴。そして、一家の子供たちを見守る駄菓子屋の店主役に、柄本明。その他、緒形直人、森口瑤子らベテラン俳優陣や、若手実力派俳優の山田裕貴、片山萌美など、豪華キャストが集結する。