ある日、イーストロンドンの住民たちは、家のポストを通して、郵便局からの不在通知そっくりのはがきを受け取った。そこには、「あなたの落とし物を預かっているので、このはがきを持って記載されている日時に落とし物管理所までお越し下さい」と書かれており、それぞれの落とし物番号が記載されていた…
この奇妙な物語のはじまりは、2012年7月7日(土)から水戸芸術館で展覧会を開催する山本麻紀子というひとりのアーティストによるプロジェクト、「Lost and Found」のはじまり。様々な感情を抱え、落とし物管理所にやってきた人は、そこで予想もしない落とし物に巡り合った。それらは、山本が約2ヶ月かけて、イーストロンドンの路上やブティック、クラブなどで回収してきた約350個の落し物コレクション。山本は、それら全てに落とし物番号のタグをつけ、"落とし物管理所"と看板が付けられたスペースに陳列したのだ。7日間で訪れたのは約110人。このプロジェクト終了後、約200のアイテムが残された。
それらのアイテムは、今度はBsixCollege大学内の、チャリティーショップを装ったフリーショップに並べられた。通常のショッピングにやってきた人々は、 「Lost and Found」のタグのついた不思議なアイテムに出会い、気に入ったものがあれば無料で持っていくことができた。また、何かを代わり寄付することもできた。ショップは2週間オープンし、前回のプロジェクトで残った200のアイテムのうち約100がなくなり、約100の寄付を回収した。
このふたつのプロジェクトを主宰した山本は、習慣や常識など日々無意識的に行っている行為や、出会いや対話などによる他者や世界とのかかわり方を、様々なメディアを用いて発生させ、記録しているアーティスト。ロンドンで集められたアイテムは日本に運ばれ、水戸での新たなプロジェクトで使用された。それが結実したのが今回の展覧会だ。
この展覧会は、山本麻紀子が水戸に1カ月以上滞在しながら行うアートプロジェクト《MENDING MITO》のドキュメンテーション展示だ。《MENDING MITO》とは、水戸市内各所にある時代の風化や、災害などによる様々な傷跡を、地元の人々との対話をとおして修復していくというプロジェクト。ただ元通りにするのではなく、前述のプロジェクトを経てきたイギリスの素材を用いて、その場所に住む・使う人々に求められている完成イメージをコミュニケーションから探り、引き出しながらMending(直す / 修復する)が行われている。
ロンドンで不要なものとされていたアイテムは、「どこかで何かが不足していれば、その反対側で何かがあまっている」という山本の考えをもとに、世界規模のジグソーパズルのピースをうめるように、日本で必要とされる場所に修復という行為をとおしておさめられる。
修繕は現在も市内約45箇所(予定)で行われており、すでに修復を行った場所は、商店街の店舗内や店舗外、県立図書館や薬局前のパンダの置物など。また、水戸芸術館館内各所でも修復を行い、それらのドキュメンテーションとロンドンでの2つのプロジェクトの映像とともに展覧会場で紹介する。また、会場では修復マップを配布し、来館者が館外に出て市内各所の修復(展示)をみてまわることができる。生まれ変わったロンドンの落し物たちを探しに、水戸の街に繰り出そう。
また、山本自身がプロジェクトについて語るトークイベントも開催決定。プロジェクトを通して経験した人々との出会いや交流など、展覧会場では伝えきれない様々なエピソードを紹介する。
【アーティストトーク】
日時:2012年9月9日(日) 14:00~15:00
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー第9室横オープンスペース
定員:30名 予約不要・先着順
参加費:無料 ※料金は「水戸岡鋭治の鉄道デザイン展」入場料に含まれる
【展覧会情報】
クリテリオム84 山本麻紀子 MENDING MITO - この世界は凸と凹でできている、まるでパズルのように
開催期間:2012年7月7日(土)~2012年9月30日(日)
会場:水戸芸術館現代美術ギャラリー第9室
住所:茨城県水戸市五軒町1-6-8
TEL:029-227-8111
入場料:同時開催「水戸岡鋭治の鉄道デザイン展」展入場料(一般 800円 / 前売り・団体 600円 / 中学生以下、65歳以上、障害者手帳をお持ちの方と付き添い1名は無料)に含まれる
主催:公益財団法人水戸市芸術振興財団
助成:公益財団法人アサヒビール芸術文化財団
協力:アサヒビール株式会社
企画:門脇さや子(水戸芸術館現代美術センター学芸員)
URL:http://arttowermito.or.jp/gallery/gallery02.html?id=332