「機動戦士ガンダムの40周年プロジェクト」の集大成として制作され、近日公開となる『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』。その主人公、ハサウェイ・ノアを小野賢章が演じる。
小野賢章は、これまで映画『ハリー・ポッター』シリーズのハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフ)をはじめとする吹替、『黒子のバスケ』の黒子テツヤ、『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』のジョルノ・ジョバァーナ、『文豪ストレイドックス』の芥川龍之介など人気作に声優として出演してきた。また、舞台俳優や歌手としても活動している。
幅広く活躍する小野に、今回はアニメ声優としての活動について伺った。小野が声優として活躍するまでの経緯とは? そして、小野が声優として大切にしていることとは?
■小野さんがアニメ声優に力を入れ始めたきっかけはどのようなことでしたか。
もともと、声優をするようになったのは、映画『ハリー・ポッター』でハリー・ポッター役(ダニエル・ラドクリフ)の吹替に出演させていただいたことがきっかけでした。その後、高校卒業のタイミングぐらいまでは、舞台俳優としても活動しており、アニメ作品はたまに出演させていただく程度でした。
ただ、当時、その数少なかった出演作品の中で感じたんですよね。「僕はアニメ声優としての需要がないな」と。
■なぜ「需要がない」と感じられたのでしょう?
単純に自分の声優としての芝居が下手だと思いました。
■吹替とはまた違う難しさがあったのでしょうか。
吹替はもともと海外の俳優さんたちがすでに演じられていて、完成されたものがあるわけですから、演じられている俳優さんのお芝居を参考にして演じていきます。
一方で、アニメはゼロに近いところから作っていかなければいけません。監督がどういうイメージを持っているのか、スタッフさんたちがどういうキャラクターにしていきたいのかを第1に考えて演じていきます。僕は、原作があるものについては必ず読んでみるのですが、そこで自分が感じたことも大事にしながら。
■では「需要がない」と感じられた後、どのようにアニメ声優という仕事に向き合いましたか?
僕は養成所に通って声優のお芝居の練習をしたわけではなかったので、それまで学ぶ機会が全くなくて。だから学ぶことからはじめようと思いました。以後、声優の仕事がほぼなかった2~3年は、とにかく勉強のためにアニメを見る日々が続きました。
もともとアニメを見て育ってきていなかったので、まず「何を見るか」というところからのスタート。最初は、その当時共演させていただいた方の出演作品を、レンタルショップで借りて全巻見ました。次に、同じ作品に出演されている方の中で好きなお芝居をされている方がいれば、出演作品をさらに調べてレンタルして見る……という繰り返しでしたね。
ただ作品を見るだけでなく、真似てみたり、僕だったらこういう風にやるかなと考えてみたり、自分なりに研究しました。
■その後、人気アニメ『黒子のバスケ』で主演(黒子テツヤ役)を務めました。
『黒子のバスケ』は声優としての分岐点となった作品です。黒子テツヤはあまり感情を表に出すタイプの人間ではなかったので、心で静かに闘志を燃やす瞬間など、彼の隠れた思いを声色にのせるにはどうすればいいかを常に考えていました。
これは、声優するうえで重要なことだと今でも思っています。細かい感情の表し方を、きちんと考えられるようになったのは『黒子のバスケ』がきっかけでした。
■俳優もされている小野さんが思う、声優ならではの難しさとは?
声優は、俳優と違って自分だけで演じることが完結しませんし、アニメキャラクターの表情に声をのせていくので、どうしても現実にはなりえないんですよね。
そんな中でも、できるだけ現実を感じてもらえるようにするには、“違和感”が生まれないように絵と声を丁寧にあわせて現実にすり合わせていかなければなりません。それは声優ならではの難しさであり、やりがいでもありますね。
■“違和感”をなくすというのは具体的にはどういったことでしょうか。
例えば、“怒る”という感情をひとつとっても、何通りもの“怒る”を準備します。どういう怒り方なのかを、シチュエーションや会話する相手との関係性、それまでのストーリーすべてを考えながらニュアンスを考えてみるんです。
「この表情でこんな風には言わないだろう」みたいな“違和感”が少しでもあれば直していく。その作業の繰り返しだと思っています。
■自分自身の声から“違和感”を感じ取ることも、また難しいことかと思います。
そうですね。 “違和感”を感じとるためには、アニメーションをあわせた時に自分の声がどんな風に映るのかを客観的に見られるということが大切だと思っています。自分の声を客観的な目で見ると、聞き馴染のないニュアンスが見えてくる。その“違和感”をなくして、見ている人の耳にスッと入っていく“現実”に近い声色を考えていきます。
僕が声優を始めるときに感じた「声優としての芝居が下手」という感覚も同じことです。幸運にも、僕は比較的早い段階で“違和感”に気づくことができました。
■丁寧に“違和感”をなくす作業を繰り返すことでアニメの現実味が帯びてくると。
実は、オンエアされたものを見て、1人で勝手に「これはちょっと違ったかもしれないなあ」って思うこともあります(笑)。それは僕自身が思うだけで、監督がOKしているものだからOKには変わりないのですが、僕自身は「あとほんの少しだけこうすればよかったのかなあ」と思うことがあったりして。逆に、「イイじゃん!」て思うこともあるんです。それを常に出せるようにしたいと思っています。
<小野賢章 プロフィール>
1989年10月5日生まれ。福岡生まれ。子役時代から、舞台、映画とジャンルを問わずマルチに活躍。2001年、ハリー・ポッターの吹き替えを契機に、声優としての活動も始める。アニモプロデュース所属。なお、声優としての主な出演作は以下。
『ハリー・ポッターシリーズ』 ハリー・ポッター役(2001~)、『黒子のバスケ』黒子テツヤ役(2012~)、『文豪ストレイドッグス』芥川龍之介役(2016)、『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』ジョルノ・ジョバァーナ役(2018~)、『スパイダーマン:スパイダーバース』 マイルス・モラレス役(2019)など。
劇場版アニメーション『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』
公開日:近日公開
企画・製作:サンライズ
原作:富野由悠季、矢立 肇
監督:村瀬修功
脚本:むとうやすゆき
キャラクターデザイン:pablo uchida、恩田尚之、工原しげき
キャラクターデザイン原案:美樹本晴彦
メカニカルデザイン:カトキハジメ、山根公利、中谷誠一、玄馬宣彦
メカニカルデザイン原案:森木靖泰
総作画監督:恩田尚之
色彩設計:すずきたかこ
CGディレクター:増尾隆幸、藤江智洋
編集:今井大介
音響演出:笠松広司
録音演出:木村絵理子
音楽:澤野弘之
主題歌:[Alexandros]
<声の出演>
出演:小野賢章、上田麗奈、諏訪部順一
©創通・サンライズ