■4人でクリスマスパーティーをするシーンは、監督からキャラクターのバックボーンが書かれているメモだけが渡されて、全員がアドリブで演じたと聞きました。
宮沢:そのシーンは、すごく難しかったです。でも、やっていくうちにすごく楽しくなりました。4人で話すの、楽しかったよね。
小松:うん。監督から渡されたメモに、4人それぞれ違う課題が書いてあって、それを自分たちで考えて表現しなくちゃいけなくて。リハーサルもなく、自分の頭で考えたセリフだけで本番に臨んだので、現場には張りつめた緊張感がありました。お互いが、何を言うんだろう?どう反応しよう?みたいなね(笑)
宮沢:次は自分の番だぞ、ってドキドキしながら(笑)
小松:そう(笑)、監督はドキュメンタリーのような緊張感を仕掛けたかったのか、自然とでてくる人間味みたいなものを捉えたかったのか...どちらにしても、監督だからこそできる技だなと思いましたね。でも完成した映画を観たら、私のところは全部カットされていて(笑)さつきというキャラクターについて、深く考えすぎてしまったのかも。
■小松さんは、さつきに共感できる部分はありましたか。
小松:演じる前は、 自分と重ねるのが難しいキャラクターだと思っていました。言葉数も少ないし、どの登場人物との距離感もそれぞれ違っていて、つかみどころがない人物だなと。でも、クランクインの直後に、さつきと一体化できたと感じる撮影があって。そこから、フラットな気持ちで演技に臨むことができました。
■その撮影は、どのようなシーンだったのでしょうか。
小松:体を動かして走る、というだけのシーンなのですが、その場面を撮影するために、減量もしていて。「自分にはもう何もない」みたいなさつきの孤独感や喪失感を、自分に重ねることができた瞬間でした。
■小松さんは、演じてみて初めて、さつきに共感できたのですね。
小松:実は私、どんなキャラクターでも、演じる前は、自分に似ていないなって思うんです。でも徐々に、自分に似ていると思うところや、この気持ちわかるなって共感できるところが出てくる。演じてみて、初めて、キャラクターのことを理解できるというか。役者という仕事は、自分と違う人物に寄り添わなければいけない。それがすごく難しいけど、面白い。不思議な仕事です(笑)
宮沢:役者の仕事というのは、自分ではない人の人生を生きるということだから、普段の自分では絶対に知ることができない感情や景色が見えてきて、僕も面白いと思う。その経験が、人生を豊かにしてくれているのかなと感じます。
小松:うん。自分の人生を豊かにしてくれるというのもあるし、誰かの人生に影響を与えているという感覚も、私はすごく感じている。
■他の人の人生に影響を与えるというのは、具体的にどのようなイメージでしょうか?
小松:自分が出演している作品を通して、観てくれる人に何かしらの影響を与えられたらなって。私は、誰が観ても答えがわかるようなわかりやすい作品より、答えが無い考えさせられる作品が好きなんですね。観た人の答えがみんなそれぞれ違っても良いし、一緒に正解を埋めてもいい、っていう作品。
そういう作品に表現者として参加できるということは、役者の醍醐味だと思っています。なので、私はものづくりの現場にいる時間が、自分の人生の中で一番好きなんです。
■現場でものづくりをしている瞬間が、一番楽しいのですね。
小松:ものづくりの現場は、作り手の気持ちが一番ダイレクトに伝わってくる場所。作り手が大切にしたい想いとか、やりきれないくやしさとか、そこにいる人にしかわからない景色が、現場にいると見えてくる。役者の仕事って、現場にいる人と人との信頼関係でなりたっているものだから、自分でその関係性を築いていかなきゃいけなくて。苦しい部分もたくさんあるけど、私はそこで一番「生きている」って感じることができる。いつも命がけで作品を作っています。
■小松さんが、役者という仕事に“命がけ”になれるモチベーションは、どこから生まれてくるのでしょう。
小松:現場にいる人のパワーですね。撮影部も照明部も録音部も、みんな自分の仕事に誇りを持って現場に挑んでいるので、自分も中途半端な気持ちにできないし、したくない。チームで作品を作っているので、自分の仕事ぶりを見て、他のみんなも「頑張ろう」って思ってくれたり、現場が良い雰囲気に進んだりすると嬉しくなります。
■宮沢さんは、役者を続けることのモチベーションになっていることはありますか。
宮沢:自分でも知らなかった、自分の新しい一面を発見できることですね。自分がどんな人なのか知らない人って案外多いと思うのですが、実は僕も自分のことが一番よくわからなくて。だから、表現の場に行くことで、自分にはこういうこともできる、こういう感情もある、って自分の知らなかった一面を知ることが楽しい。「自分はどんな人間なのか」ということの答えを探しているうちは、このお仕事を続けているんじゃないかなと思います。
柊(ひいらぎ):佐藤緋美
等の弟。兄の等と自身の恋人・ゆみこを同時に亡くし、兄の恋人=さつきとともに、ともに深い哀しみに打ちひしがれながらも、少しずつ“生きていく”という日常を取りもどしていく。亡くなった恋人・ゆみこのセーラー服を着て日々を過ごし何かを感じようとする、原作でも非常にインパクトのあるキャラクター。
麗(うらら):臼田あさ美
〈月影現象〉へさつきと柊を次第に導いていく、不思議な女性。原作ファンが注目するキャラクターの一人。
ゆみこ:中原ナナ...柊の亡くなった恋人。
蛍:吉倉あおい ...さつきの親友。
充:中野誠也...さつきや柊と麗を巡り合わせる人物。原作にはないオリジナルのキャラクター。
監督を務めるのは、マレーシア人映画監督 エドモンド・ヨウ。2017年の東京国際映画祭では、『アケラットーロヒンギャの祈り』で東南アジア初となる最優秀監督賞を受賞した気鋭の映画監督だ。『ムーンライト・シャドウ』では、原作への尊敬と愛情を抱きながら、幻想的で詩情豊かな物語に新しい生命を吹き込む。
エドモンド監督のこだわりが垣間見える、鮮やかなセットデザインにも注目。さつきの部屋のセットについては巨匠ペドロ・アルモドバルからインスピレーションを得たと明かしており、作品全体の映像のカラーはクシシュトフ・キェシロフスキやルカ・グァダニーノの作品から影響を受けているという。
映画『ムーンライト・シャドウ』のコラボレーションソングに、小袋成彬の「Parallax」が決定。小袋成彬は、宇多田ヒカルをプロデューサーに迎え、アルバム『分離派の夏』 でメジャーデビューしたアーティストで、「Parallax」は2nd アルバム「Piercing」以来1年9か月振りとなる新曲だ。