吉沢亮と北村匠海 - 映画『さくら』で兄弟役を演じ、『東京リベンジャーズ』で友達の枠を超えた特別な関係を好演した。
吉沢は2021年の大河ドラマ「青天を衝け」で主人公・渋沢栄一役を熱演。北村は、映画『明け方の若者たち』などで主演を務める傍ら、ダンスロックバンド・DISH//としてNHK紅白歌合戦への初出場を果たすなど、活躍の場を広げている。
そんな才気溢れる若きふたりの俳優が再び兄弟役で挑むのは、フィリップ・リドリーが2005年に書き下ろした作品『マーキュリー・ファー Mercury Fur』。過酷な状況下で生きることを渇望する兄弟の物語は、白井晃の演出により2015年に別キャストで日本初演され、観客に大きな衝撃を与えた。
各方面から一際熱い視線が注がれる『マーキュリー・ファー Mercury Fur』の再演を前に、彼らは何を思うのだろうか?開幕に先駆け、インタビューを実施した。
■おふたりとも2015年の初演をご覧になられたそうですね。
吉沢:はい。『マーキュリー・ファー』を初めて見させていただいたのは、20歳か21歳の時でした。役者さんたちの生々しい感情がストレートに胸に迫ってきて、 “見てはいけないものを見ている”と思ったことを今でも覚えています。
演劇を見ているというよりも、作品の世界で生きているような感覚に近く、すぐに立ち上がれないほどの衝撃を受けました。それと同時に、観客にこれだけのことを思わせる舞台に立つ役者さんたちを心底羨ましいと思いました。
それからずっとマネージャーさんに、「マーキュリー・ファーのような舞台をやりたい!」と言っていたので、今回のオファーをいただいたときは純粋に嬉しかった。ただその一方で、あの衝撃的な作品を、本当に自分が出来るだろうかと不安になりました。
北村:僕が日本初演の『マーキュリー・ファー』を見たのは高校生の時。舞台が好きだったので頻繁に観劇していましたが、その中でも取り分け“凄いものを見た”という記憶があります。
当時、世界では目を伏せたくなるような事が起こっていましたが、平和な日本で暮らす、ましてや高校生の僕たちは、遠く離れた場所で起きている出来事をどうしても身近に感じることが出来なかった。でも、改めて台本をいただいて稽古に取り組んでいると、初演に関わっていた皆さんは、当時の社会情勢に思いを馳せながら演じられていたのだろうなと思いました。
観劇当時も役者として活動していましたが、まだ作品の深みに触れられる領域にはいなかった。だから、ただ純粋に“すごい芝居を見たな”と思うことしか出来ませんでした。
■そんな衝撃的な作品にエリオットとダレンという兄弟役で挑戦されるわけですが、ご自身の役をどのように捉えていますか?
吉沢:僕が演じるエリオットは、考古学者を目指していた過去があり、歴史に対して深い知識を持つ人物。この作品の中で、唯一冷静に物事を考えられる男でもあります。
劇中では弟のダレンを含めた周りの人が〈バタフライ〉に侵されていくわけですが、そんな彼らと向き合う度に、エリオットの心も壊れていくような気がしていて。
強い口調で他人に当たってしまうキャラクターでもありますが、それは“大切な人たちとこの過酷な世界を生き抜かなければならない”という彼なりの責任感の表れであり、冷静に現状を把握しているからこそ感情的になってしまうのではないかと思います。誰よりも世界に対する強い怒りを持った人間であると感じています。
■北村さんが演じるダレンは、やや自由奔放な弟というイメージがあります。
北村:そうですね。ダレンは朦朧と生きていて、会話の流れをぶった切るなど突発的に空気を壊すキャラクター。そのようなところには、無邪気で無垢な弟らしさを感じますが、僕は“ギリギリで生きている男の子”だと捉えています。エリオットという冷静な心を持ち続けている兄を“唯一の光”だと思いながら、そこへの愛だけで生きているような気がしています。
■実際に稽古に入られてみていかがですか。
北村:初舞台の僕は、右も左も分からないところからのスタートだったので、最初から何もかもが大変で…。昔から自分のことを“スポンジ人間”だと思っていたのですが、今回はいつもの倍速で物事を吸収しなければ間に合わないほど、やることが沢山あります。
いつもより大きく演技をして、そこから滲み出るような表現を求められることが多いですが、特に難しいと感じているのは〈回想シーン〉。映像作品であれば、過去の映像を流しながら自分たちの声をのせるという表現ができますが、この舞台では自分が放つ言葉と動作だけで過去の景色を観客に見せなければならない。たった1人で、全ての映像を具現化することが求められます。
演出家の白井さんもそこに対して特に力を入れて演出してくれていますが、どこかの間が1つ空いてしまうだけでも表現しきれなくなることがあるので、日々表現力を磨いています。
吉沢:しかも『マーキュリー・ファー』は、大きな転換がない作品。約2時間、最後まで飽きさせることなく物語を届けなければなりません。膨大なセリフを覚えるということももちろん大変ですが、表現することはもっと難しい。日本初演の皆さんが本当に大変なことを成し遂げていたのだと、今改めて思います。
■おふたりとも、過去に白井さんとお仕事された方にお話を聞いてから稽古に臨んだそうですね。
吉沢:僕は初演でダレン役を演じた瀬戸康史さんに「追い詰められるし、マジでやばいよ」と言われていたので、怖いなと思いながら稽古に臨みました(笑)。
稽古が始まって、白井さんはとても丁寧に演出される方だなと思っています。細かく説明してくださる時もあれば、漠然とイメージを伝えられて自分で考える時もある。
ただ1つ言えるのは、白井さんの言っていることをその通りにやっていては駄目なのだということです。エリオットという人物をしっかり掴めていないと、白井さんの言っていることを理解できないので、自分なりに解釈しながら進めています。難しいですが、心から楽しいと思えますし、やりがいを感じています。
北村:僕も親しい友人から白井さんのお話を聞いた上で稽古に臨みました。驚くほどに一人ひとり抱いているイメージが異なりましたが、それは白井さんご自身が作品の色に染まっていく人だからなのだと考えています。
『マーキュリー・ファー』という作品を1つとっても、「初演の時は作品と現実世界の境が無いように感じていたけれど、今回は声を大にして〈愛の物語〉だと言える」と話されていて。今起きていることや今必要なメッセージを、作品として昇華されているのだろうなと思いました。
■そんな〈愛の物語〉でおふたりはお互いに生きる希望のような存在を演じます。おふたりご自身にとって、生きる支えになっているものは何ですか。
吉沢:ビール、お酒かな(笑)。帰宅して飲むビールを楽しみに仕事を頑張っているみたいなところは正直あります。
北村:たしかに(笑)。でも今回は、お酒を飲む余裕が全然なくて…。稽古が始まった頃は、朝晩繰り返し台本を読んで、頭にセリフを入れていました。今はやっと1つ上のステージに行けたので、お酒を飲める余裕が少し出てきたかな。
■映画やドラマの話題作が絶えない人気俳優のおふたりですが、映像作品とは異なる舞台の魅力とは何でしょう?
吉沢:僕は舞台に挑戦する度に、芝居について深く考えることの大切さに改めて気付かされています。映像作品では自分と監督が正解だと思えば一発OKになりますが、舞台はそれ以上のものがあると信じて何百回も繰り返す。役作りから台詞1つに至るまで、1つの正解を探しながら丁寧に作っていきます。
北村:僕も同じですね。僕の場合は今回が初舞台なので、全てが初めての経験ではありますが、ここまでひとつの作品で芝居を追求し続けるという経験が、ドラマや映画には無かったので、凄く新鮮ですし面白い。
音楽活動で目の前のお客さんに声を届けるということを、映像作品で芝居をやってきたのですが、今まで自分が取り組んできたことが総合的に纏まっているものが舞台かもしれないなと思っています。
それから映像作品では長回しの1カットでも15分ほどですが、物語が続く限り入り込める舞台特有の芝居の長さも、“作品の世界で生きている!”という感じがするんですよね。先日の稽古では、あまりにも演技に没入しすぎて最後の最後に立ち上がれなくなったほど(笑)。
吉沢:匠海は初舞台とは思えないほど、堂々と演技しているからすごいよね。僕は何度か舞台に出演していますが、芝居の中で一番精神的にくるものも舞台だって感じているんです。
■舞台は“修行の場”だと。
吉沢:はい。僕にとっては修行の場であり、成長の場でもあります。舞台以上に、深く芝居と向き合い、自問自答を繰り返すことなんて他にないですからね。過去に出演した『百鬼オペラ「羅生門」』という作品では、怖すぎて毎日吐きそうな思いをしていた時期もあったほど。けれど舞台上に立つと、毎回芝居への新しい発見があって、楽しくて仕方なくなる。そのようなところも舞台ならではの醍醐味だと思っています。
■おふたりとも舞台・映像に限らず、表現するということを10年以上されています。続けるモチベーションは何でしょう?
北村:僕は何かがモチベーションで続けているというよりも、ただ好きだからという気持ちの方が強いです。今何かを決めつける必要性は感じていませんし、30代40代になってから本当に自分がやりたいことを見つければいい。
20代のうちは、“いくらでも失敗していい”という気持ちで色々なことに挑戦しています。
吉沢:僕も同じ。大きな理由もなく、ものづくりの現場が好きなので続けています。いつも一生懸命作品を作っているので、反響が良ければ嬉しいし、悪かったら悲しいですが、やっぱり作っているときが1番楽しい。
その上で、何か1つ意味がプラスされるとすごくモチベーションが上がります。脚本を読んだときに面白いなと思えたらやりたいし、一緒に仕事をしたい人とできるのであればぜひ参加したい。それこそ、今回の『マーキュリー・ファー』で匠海の初舞台にご一緒できるというのは、本当に嬉しいことですし、1つのモチベーションでもあります。
【クレジット】
ヘアメイク:[吉沢]小林正憲(SHIMA)、[北村] 佐鳥麻子
スタイリスト:[吉沢] 荒木大輔、[北村] Shinya Tokita
衣装クレジット:
[吉沢]無し
[北村] ジャケット 38,500円、パンツ 45,100円 アワーレガシー(エドストローム オフィス)、シャツ 46,310円 ナヌーシュカ(ヒラオインク)、その他スタイリスト私物
問い合わせ先:エドストローム オフィス 03-6427-5901、ヒラオインク 03-5771-8809
【作品詳細】
舞台『マーキュリー・ファー Mercury Fur 』
作:フィリップ・リドリー
演出:白井晃
翻訳:小宮山智津子
出演:吉沢亮、北村匠海、加治将樹、宮崎秋人、 小日向星一、 山﨑光、水橋研二、大空ゆうひ
上演日程:2022年1月28日(金)~2月16日(水)
会場:世田谷パブリックシアター
※2022年2月19日(土)~長野 (松本 )、新潟、兵庫 (西宮 )、兵庫 (神戸 )、愛知、福岡でツアー公演を実施 。