【展覧会構成】
[Ⅰ]De-Construction / Re-Construction(解体と再構築) : 約50 点 + 写真6 点 + ビジュアル資料
①In Praise of Shadows(陰翳礼讃)
川久保玲と山本耀司は、1980年代初め、黒を中心とした無彩色、非構築的な、破れやほつれを施した、西欧の美意識から外れた作品を発表。この時、多義的な意味を含む黒はみすぼらしさと直截的に関連付けられて、日本ファッションは「Beggar look」とあだ名され、黒は日本ファッションの代名詞となった。
しかしそれは、川久保が80年代末その本来の優れた色彩感覚を現したように、多彩な色が溢れる当時のファッションに対するアンチテーゼ、意図的な提案だった。彼らの色彩はしばしば、谷崎潤一郎が『陰翳礼讃』で語る、あるいは墨絵にも似た黒の極めて豊かな階調表現。
男性服で一足早く黒が日常の色となった後、20世紀後期、黒は女性服にとっても時代の色となる。
②Flatness(平面性)
「Japanese Fashion」はしばしば、フォルムがない、と評される。それは、日本人デザイナーが西欧的な衣服構成から解き放たれて、平面的な構成を自由に操ることができたことによる。日本の着物もそうである平面的な構造は、世界各地に見らるが、これを現代服に昇華させたのは、三宅一生、川久保玲らの造形力だった。
平面的な構造の服は、オーバーサイズ、非定形、非対称で、女性の身体を際立たせる西欧的な形を持たない。このいわば、身体を合理的に彫塑しない服は、身体に沿わない不合理な空間、〈間(ま)〉を生む。しかしそれは、身体の線とかけ離れた自由なフォルムを生むことにもなった。
西欧的な秩序である構造性の欠如の中に、逆説的に構造を打ち立てる、換言すれば脱構築的な行為。それは、ファッションを服飾造型の新たな次元へと導くことになった。
③Tradition and Innovation(不易流行)
素材に対する日本人デザイナーの鋭い感性は、当初から西欧に高く評価されるものだった。三宅、川久保、山本らは既成の素材に依存せず、テキスタイルデザイナーとの協働により独自に素材を開発して独自性のある服を作っており、その姿勢はより若い世代の渡辺淳弥、まとふ、ミント・デザインズらにも明確に見られる。
こうした姿勢とそれを具現化する日本の繊維産業の関係は、世界でも他に例を見ない。伝統的な高度な着物文化が育んだ染織技術、素材に対するこだわりは、第二次大戦後に発達した化合繊産業の時代となっても受け継がれた。
日本人デザイナーは天然繊維と化合繊を等価の材料として扱い、そこに、これも日本が先導する先端テクノロジーによる多様な加工技術を加えて、新しい表情や質感、さらには新しい機能性をも生み出している。日本ファッションは、デザイナーの創造力と日本の伝統が交差した地点で生み出された。
左) ミントデザインズ(勝井北斗+八木奈央) 2008年秋冬 有限会社ミントデザインズ寄贈 広川泰士撮影
右) まとふ(堀畑裕之+関口真希子) 2008年秋冬 林雅之撮影
左・右ともに京都服飾文化研究財団所蔵
④Cool Japan(クール・ジャパン)
現在、世界中から注目を集めている日本のポップ・カルチャー。そのキーワードとなる「カワイイ(Kawaii)」は世界語となり、今やもっとも「cool」な言葉の一つとなっている。
「Cool Japan」とも評されるこの新たな日本熱において注目を集めているのはマンガやアニメ、ゲームなどのサブカルチャーと、その影響を強烈に受けた「ロリータ」や「ゴスロリ」に代表される日本の若者のファッションである。
大衆文化からの影響、子供趣味、過剰な装飾、バッド・テイストに彩られた彼らの感覚は、村上隆ら現代アーティストや栗原たお、高橋盾など若い世代のデザイナーの作品にも色濃く現れ、その世界的な評価につながっている。
「Japanese Fashion」とは決して単一の現象ではない。個々のデザイナーがそれぞれの価値観や美意識を持ちながら独自の表現で新たなファッションを求めてきた、さまざまな活動の総体である。その多様性こそが、新しいシステムを模索する現代ファッションが日本に熱く注目する大きな理由の一つではないだろうか。
[Ⅱ]Designers(デザイナーズ) : 約50点
ブランド別の展示によって、代表作から最新作までそれぞれのデザイナーの創造性により深く迫る。また、現在活躍中のデザイナーの作品をより幅広く紹介。
三宅一生、川久保玲(コム・デ・ギャルソン)、山本耀司、渡辺淳弥、高橋盾(アンダーカバー)、栗原たお(タオ・コム・デ・ギャルソン)、ミントデザインズ
・ネクスト・ジェネレーション
( 阿部千登勢(サカイ)、坂部三樹郎、高島一精(ネ・ネット)、中章(アキラ ナカ)、廣川玉枝(ソマルタ)、堀内太郎、森永邦彦(アンリアレイジ) )