特別企画展「版画家が刻んだ昭和の彩り—館蔵版画集を中心に—」が、東京の昭和館にて、2025年3月15日(土)から5月11日(日)まで開催される。
特別企画展「版画家が刻んだ昭和の彩り—館蔵版画集を中心に—」は、木版画を通じて昭和時代の情景を紹介する展覧会だ。昭和館が所蔵する約600点の木版画のなかから、関東大震災から復興した街並みを描いた『新東京百景』や、第二次世界大戦の終戦直後に刊行された『東京回顧図会』などを公開する。
日本で近代木版画が発展する礎となったのが、新版画と創作版画だ。木版画は、江戸時代にはメディアとして人々に浸透していたものの、明治時代以降、活版印刷や写真技術が日本にもたらされたことから、その需要が激減。こうしたなか、明治時代末から昭和時代初期にかけて、木版画を再興する動きが現れた。その二大潮流が、江戸時代以来の木版画の制作体制を継承し、絵師・彫師・摺師が協業する「新版画」と、ひとりの版画家が下絵の制作・彫り・摺りをすべて行う「創作版画」である。そして大正時代以降には、版画雑誌や指南書の刊行、講習会の開催などを通して、木版画の制作は全国に広がっていった。
本展の第I章では、昭和時代初期の木版画に着目。大正12年(1923年)の関東大震災は、東京一帯に大規模な火災を起こすなど、南関東を中心に大きな被害をもたらした。その後、昭和時代初期にかけて復興が進められると、東京には耐火性・耐震性のあるコンクリート製の建造物が増え、近代都市へと変貌していった。会場では、『新東京百景』の前川千帆《渋谷百軒店》や川瀬巴水《弁慶橋の春雨》など、東京の新しい街並みを描いた木版画を目にすることができる。
昭和12年(1937年)に日中戦争が勃発すると、日本国民が一丸となって戦争に向かう体制が打ち立てられた。こうしたなか、木版画の題材には、銃後の生活や富士山など、戦意高揚を促すものが増加し、版画集においても文化の進展や報国、慰問を意識した企画が立てられるようになった。第II章では、銃後の生活を描いた井川洗厓《第七篇 銃後婦人》など、戦時中の木版画に加えて、挿絵画家・井川洗厓による『支那事変版画』の肉筆画も紹介する。
第二次世界大戦が終結を迎えると、日本はGHQの占領下に置かれ、進駐軍が駐留することとなった。日本の木版画は、戦前から欧米で高く評価されており、戦後も進駐軍の兵士から人気を集めている。一方、空襲により焦土と化した各地の光景を目にし、版画家は戦前を回顧する版画集を手がけてゆくことになった。第III章では、恩地孝四郎《二重橋》をはじめ、終戦直後に刊行された『東京回顧図会』全15点を一挙公開するなど、戦後の木版画を展示する。
特別企画展「版画家が刻んだ昭和の彩り—館蔵版画集を中心に—」
会期:2025年3月15日(土)~5月11日(日)
[前期 3月15日(土)~4月13日(日) / 後期 4月15日(火)~5月11日(日)]
会場:昭和館 3F 特別企画展会場
住所:東京都千代田区九段南1-6-1
開館時間:10:00~17:30(入館は17:00まで)
休館日:月曜日(4月28日(月)、5月5日(月・祝)は開館)、5月7日(水)
観覧料:無料
【問い合わせ先】
昭和館
TEL:03-3222-2577