東京・丸の内にある「帝国劇場」が2025年2月末をもって一時休館。「(仮称)丸の内3-1プロジェクト(国際ビル・帝劇ビル建替計画)」により建て替え、リニューアルする。開業は2030年度を予定している。
1911年に日本初の本格的な西洋式大劇場として、東京・皇居前に誕生した初代帝国劇場。1966年には、劇作家・演出家の菊田一夫と建築家・谷口吉郎の手掛けた現在の2代目帝国劇場が開場し、『屋根の上のヴァイオリン弾き』『王様と私』『ラ・マンチャの男』『マイ・フェア・レディ』『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』といったミュージカルをはじめ、歌舞伎から大衆演劇まで幅広いジャンルの作品を上演し、演劇・ミュージカルの聖地として多くの人々を魅了してきた。
また、近年では『千と千尋の神隠し』や『エリザベート』などの話題作を数多く届け、2023年には人気コミックを原作とした『キングダム』『SPY×FAMILY』も上演された。
そんな帝国劇場が、帝劇ビルの閉館及び建替えに伴い、2025年2月を目途に一時休館することに。一時休館を終えた後は、帝劇ビルに隣接する国際ビルと共同して一体的に建替えられたビルにおいて、“3代目”の新たな帝国劇場として再開予定となっている。
リニューアル後の新帝国劇場では、初代と現在の帝国劇場独自の特徴を発展させることを軸に、客席・舞台は現在と同規模を維持する。一方で、ロビーホワイエの社交場的機能を強化し、舞台機構やバックヤードの設備も一新。「芸術性と大衆性の融合」という、初代帝国劇場から連綿と続く想いは受け継ぎつつも、劇場を訪れる観客をはじめ、舞台に立つ人、劇場で働く人など、あらゆる人々が快適に過ごすことができるように空間整備や取組を整備していく。
新帝国劇場の設計は、建築家の小堀哲夫が担当。「THE VEIL」をコンセプトに、帝国劇場周辺の自然を包み込み、賑わいを映し出す"ヴェール”のような建築を計画。皇居外苑を囲む濠に見られる水面のきらめきや皇居の方面から差し込む西日、豊かな緑といった、神秘的で唯一無二の環境となじむ劇場を想定し、多くの人が行き交う日比谷の街全体が心地よい空間となっていくことを目指していく。
特徴的なのは、メインエントランス・ホワイエ・客席・舞台が一直線となる建物の新たな構造。劇場空間は、現行の帝国劇場内の位置から90度回転させた配置に変更となる。従来と同じく丸の内5th通り側に面したメインエントランスからホワイエに入場すると、1階正面に客席があり、その先に舞台が連なる構造とすることで空間に連続性・正面性を持たせ、より格式高い空間へと一新していく。
また、地下の入り口についても正面エントランス同様にメインの出入り口として整備し、エレベーター・エスカレーターを設けた劇場ロビーを新設する。地下鉄や、施設内商業スペースへのアクセス性も向上させていく予定だ。
ホワイエは、入場後や幕間に観客たちが様々な場所に佇み、時間を過ごすことができるように設計。現帝国劇場では外からの光をおさえ、モダンな雰囲気の空間が採用されていたが、新帝国劇場では自然光を取り入れながら、華やかさ・明るさを感じられる空間へと刷新する。
さらに、従来幕間の順番待ちで長い列ができていたトイレについては、多目的トイレも設置し個数も増やすなど、充実させていく見通しだ。現行の帝国劇場では休憩時間中にトイレの順番待ちで空間が占拠される状況が続いていたが、動線を見直し待機列ができたとしても空間を確保できるような設計を計画しているという。
なお、2代目帝国劇場を象徴する猪熊弦一郎のステンドグラスをはじめ、「記憶の継承」となるような要素については「残せるところは残したい」と検討してはいるが、具体的にどのような形になっていくかは現段階では未発表となっている。
劇場内ロビー・ホワイエ空間にはカフェやバーも充実。また、有楽町駅側の南東の一角には一般利用もできるカフェ等を併設し、観劇前後はもちろん公演以外の時間にも楽しめる空間を増やす。
客席は、より一体感の感じられる空間にリニューアル。2代目帝国劇場と同等の客席数を設けながらも、座席の寸法をよりゆとりのあるものに見直し、快適な観劇空間を創出する。現状は歌舞伎公演も行えるよう、客席の傾斜を高く持たせることができなかったが、リニューアル後はより見やすさを重視し、客席内の傾斜についても見直しを図る。
なお、歩道面から入口、客席まではフラットな形状にし、スロープを使って移動ができるバリアフリー仕様に。従来位置が限定されていた車いす席は複数個所に設け、観客のより幅広いニーズに応えられるよう整備する。