『鉄道運転士の花束』は、ささやかであり、あいすべき人生を描いた作品。
主人公・イリヤは、60歳で定年間近の鉄道運転士。故意ではないにしろ、現役中に28人を殺してしまったという不名誉な記録を持っている。イリヤの養子である息子シーマはちょうど19歳。家業である義父の仕事の後を継ぐ予定だ。イリヤは、事故は避けて通れないとシーマに語る。シーマは事故になる恐怖を抱く。初乗務から初殺人に至るまでどれくらいの時間がかかるのか気がかりなシーマに対して、イリヤは「一週間のうちに一瞬で終わる」と励ます。シーマは、不安になり、汗をかき、夜も眠れない。そして1週、 2週、 3週間と過ぎていくが、無事故が続く。やがて緊張感に耐えられなくなってしまう。
そんなシー マを助けるため、イリヤは自殺志願者の人々を探し出し、高層ビルや橋から飛び降りる代わりに電車に轢かれてほしいと交渉。「理解してくれ、青年の命がかかってるんだ」と説得にかかるのだがぴったりだと思われた自殺志願者は生きる選択をしていく。他に良い方法が見つからないイリヤは、一人息子のために線路に横たわる。定刻よりかなり遅れ、ようやくシーマの運転する列車がやってくる…。