売るものではなく作りたいものを作る

アシスタント時代学んだことは？

生地の整理を担当していく中で、素材の勉強をさせてもらいました。学生のときに買える素材と、生地屋さんで織った織物は雲泥の差で。それに、自分が縫うものと工場さんに縫っていただけるものでは仕上がりが違いますし、人に作ってもらうことの難しさもありましたね。毎日知らないことを吸収するのが楽しかったです。

そこには2年くらい勤めて、その後は大手アパレル会社へ。デザインアシスタントからブランドのデザインチームに所属するまで、約8年くらい勤めました。

ブランドのアイコン‟グランマ”

モスライトはいつスタートしたのでしょうか。

アシスタント時代に、初めは週末リメイクしてみたり、縫ってみたり、それを商売にするということもなく、趣味から始めたようなものでした。いろんな出会いがあって、少しずつ活動が大きくなっていきました。

当時、ヒロ杉山さんというアーティストさんにご協力いただいていました。ヒロさんは現代アートの方なので、コンセプチュアルで思想的なものに重きを置いていて。着たいからというよりも、それを服にどう落とすか、服でどう表現するかという考え方の強い作り方をしていました。難しいことに挑戦することはすごく素敵なことでしたが、同時に考えつづけることの難しさも知りましたね。

そもそもなぜ週末に活動を？

お仕事は楽しかったのですが、売るためのものを作っていたので、そうではなくて、作りたいものを作ってみたいなと思いました。普通の人が週末ピクニックや外出するように、ストレス発散もかねて始めました。

すずらんのように甘さと毒を持つブランドへ

ミュベール 2015年春夏コレクション より

設立時は、どんな心境でしたか。

製作活動を続けたかった、何かを作り続けたかった。そして、一回休んだらずっと休んでしまうかもしれない。そういう思いがあって、ブランドやろうという感覚でした。ブランドを立ち上げたいというよりも、ただただ休まず作り続けていたかった。

ブランドイメージはどのように作っていきましたか。

ミュベールという名前を付ける前に、スクラップブックを作ったり、どういう表現をしたいのかビジュアルに貼ったりして、具体化していったときがありました。今も変わらない部分ですが、何歳の女性に着て欲しいという考えはありません。ただ、凛として立っている女性にそっとのせるような、そんな役割にブランドをしていきたかったです。

それともう一つ、すずらんを大事にしたいと思っていて。すずらんは、地上に咲いている花は鈴のように小さくて可愛らしいのに、根っこに強烈な毒を持っている。両極端なことを想ったりする自分の思考にも重なる部分があって。かわいいだけでなくて、相反するものを常に持ち合わせているブランドを作れたらいいなと考えていました。

 
ミュベール ファーストコレクション

ファーストシーズンはいかがでしたか。

一人で作るのは、チームで作るのと違って、相談もできないし、頼れないし、弱くなったときに人のせいにもできない。そういった辛さはありましたが、助けてくれる人がいたので、気持ち的な苦労はそこまでない環境でした。ルックなど撮る余裕も時間もなく、(記録として)残していないけれど、取材もたくさんしていただいて、本当に恵まれたスタートでした。

ファーストシーズンは、すずらんをモチーフにしたプリントドレスや、すずらん畑のような裏地をつけたジャケットだとか、今見ると同じブランドかな？と思うほど、静かなはじまりでしたね。とにかく無我夢中だったので、間の記憶がないくらいです(笑)。

 
ミュベール 2017年リゾートコレクション より

ユニークなコレクションテーマは、どこから生まれているのでしょう。

コレクションルックを撮影するまでは、毎回「もうこれで終わりだー」って思って、苦しくなる。でも、ルックを撮ると一安心するんです。そこまでは辛いのに、撮り終わると嬉しくて、自然と次なにやりたいかが、頭の中で映像なり絵なりで浮かんできます。そこから、それって何だろうって調べたり、歴史的な根拠がないときは、物語を自分で作ったりしていますね。

アートが好きなので、映画だとハリウッド系もミニシアター系も観ますし、美術館やギャラリーにも時間がある限り出向きます。ただ、(インスピレーションを得るために)絶対これを見ているというものはありません。

ルックでこだわっている部分は？

ミュベールらしさを全面に出してしまうと、見る側は苦しくなる。お洋服は芸術作品ではないと思っているので、「こういう着こなしをしたいわ」と理由なしで思ってもらえることが大切。でもブランドなので、ミュベールらしいひねくれたところやウィットに富んだところをほのかに香らせたい。毎回チームを組んでそのギリギリなところに挑戦し、楽しんでいます。

ミュベール旗艦店「GALLERY MUVEIL」

ミュベールといえば刺繍。元から得意だったのですか。

刺繍は元々得意でした。私自身ブランドのアイコンであると思っています。

大切なのは、ハンドメイドであること。なるべく機械でしないようにしていて、するときがあっても、必ずその上からハンドで刺繍をするようにしています。そうすることで、お洋服から奥の時間が感じられて、以前会ったことがあるよね！？って感じられる。構築的な素材を使ったり、人工的なデザインだとしても、刺繍やボタンは必ず入れるようにしています。

ただ今は、なかなか遠くの国(海外)へ行かないと、ハンドで作り切れない部分があります。「このジャケット20万です、かわいいでしょ？」って言われても困っちゃうじゃないですか。なので、機械とハンドを合わせて工夫して作っています。