細田守3年ぶりの監督作、映画『未来のミライ』が全国公開。
2006年監督を務めた『時をかける少女』でロングランヒットを記録し、一躍注目を集めた細田。2009年自身初となるオリジナル作品『サマーウォーズ』を発表、翌々年となる2011年には自身のアニメーション映画制作会社「スタジオ地図」を設立した。以後、2012年に『おおかみこどもの雨と雪』、2015年に『バケモノの子』と、3年おきにオリジナル作品を作り出し、いずれも大ヒットを記録。
そんな細田が、最新作『未来のミライ』で甘えん坊の男の子と未来からやって来た妹の「きょうだい」の物語を描く。第71回カンヌ国際映画祭で「監督週間」に選出された本作は、国内外から注目を集める話題作だ。第76回ゴールデン・グローブ賞においては、アニメーション映画賞にノミネートされている。
Q.アニメーション制作をする際、初めに行うことは何ですか?
まずは作品を作る理由を探すことですね。
それからプロットを書きはじめます。原作のあるものをアニメーションにする過程とは異なり、オリジナルでストーリーを書くところから始める作品は、ヒットするかわからない。だからこそ、オリジナル作品は自分が納得する根拠が必要。自分がどうしてこれを作ろうと思ったのか、何度も自分自身に問いかけます。
結局、自分が納得する根拠なんて自分の中からしか出てこないので、僕の場合は必然的に、自分が体験した話がよりどころになっていることが多いんです。
Q.これまで手掛けた作品には、どのような実体験を取り入れていますか。
『サマーウォーズ』は、ちょうど結婚して親戚が増えたところから着想しました。『おおかみこどもの雨と雪』は、自分の母親が亡くなったことと、僕たち夫婦にまだ子供がいなくて、子育てに憧れていた時期に生まれたもの。『バケモノの子』は、ちょうど上の子(息子)が生まれたタイミングで、自分の子供が出来たのはいいけどどうやって親になっていったらいいんだろう…って悩んでいたところから始まっています。
Q.実体験の中から家族に関わるエピソードを選ぶ理由は?
身近にいる存在に面白みを感じるようになったんでしょうね。学生時代や映画監督を志していた時期は、興味の対象が自分からものすごく遠いところにありました。それこそ、現代から400年くらい前に生きた人の人生とか、日本から遠く離れた国の人だったり。それがだんだん変化していって、奥さんだったり、僕の子供だったり、自分が影響を受ける人がどんどん近くなってきました。それまで影響を受けていたもの、古典的名作のようなものへの興味は失われて、身近にいる存在に惹かれるようになりました。
だから初期から考えると『おおかみこどもの雨と雪』のような母親を題材にした作品を作るなんて夢にも思っていませんでした。まさか自分でもこんなに長く家族について描き続ける映画監督になるとは…。思いもしませんでした。
Q.最新作『未来のミライ』もご家族の影響を受けていますか。
ちょうど息子が3歳、下の子が生まれた時期でした。きっかけは僕の息子。僕はいつも息子に、毎朝どんな夢を見たか聞くんですけど、あるとき「大きくなった妹に会ったよ」って息子が言ったんです。たいがいいつもは「電車に乗ってた」とか言うのに…。
大きくなった妹っていうのは、大きくなった赤ちゃんのようなものかと思って尋ねたら、そうではなくて、お姉ちゃんになった、妹の成長した姿に会ったって言うんですよ。で、「え、面白い!」て驚いて。まだ小さな赤ちゃんなので、どんな女の子になるかわからない時期ですから会ってみたいじゃないですか。夢を見た息子を本当に羨ましく思いましたね。
Q.その息子さんの夢をきっかけに作品制作を始めたのですか。
そこから想像し始めたのが始まりです。息子に「大きくなった妹と会って何したの?」って聞いたら、「一緒に電車に乗った」って答えるんですよ。「あ~やることは変わんないんだな」って思いながらこの話も劇中に取り入れて。
そして、奥さんに上の子がこんなことを言っていたよって話したら「え、でも私はまだ小さいままがいいな」って言われたので、この言葉もセリフとして取り入れました。
Q.実体験を作品へと膨らませるために必要なことは何でしょうか。
体験したことのない人生を見たい、映画を通して疑似的にでも体験したいって思う気持ち。実体験を起点にしているといいながら、実は物語で描いているのは、僕自身が体験していないことなんです。『未来のミライ』は兄妹のお話ですが、僕は一人っ子で、兄妹がいた人生は生きたことがない。つまり、身近なことが題材になっていても知っていることを描いているわけではないのです。
Q.『未来のミライ』では、細田監督が経験したことのない兄妹のいる人生が描かれているのですね。
僕は一人っ子。兄妹に愛を奪われるという経験はしたことがない。そこで取り入れたのは僕の息子のエピソード。最初は僕と同じ一人っ子だったので同じ人生を進んでいくんだなと見ていたら、下の子が生まれた瞬間に、俺と違う人生を歩み出した。自分の知らない人生をスタートした息子は、兄妹がいる人生ってどんなものなんだろうって僕の想像力を搔き立ててくれました。
元々は、妹が生まれたときの息子のリアクションが面白いと思ったところがスタート。それまではすごく愛されて育ったはずなのに、いきなり親の愛を妹に奪われて4歳にしてどん底に落ちる。床を転げ回って泣き叫ぶ、そんな姿を見ていると、愛を失った人間とはこういう風に見えるのだなって思ったんです。
Q.愛を失った人間?
よく考えたら、人生は愛をめぐる物語じゃないですか?愛を得たり失ったり、その繰り返しが人生。僕の息子が経験したことは、その最初の出来事だと思ったんです。これは、4歳の話ではなく人間の普遍的な人々の人生につながるなと。