1894年のクリスマス。印刷業者ルメルシエが、女優サラ・ベルナール主演によるルネサンス座の舞台「ジスモンダ」のポスター制作を急遽ミュシャに依頼したことがきっかけで、彼は有名になる足がかりを掴んだ。サラ・ベルナールの信頼を勝ち得たミュシャは、その後も《ロレンザッチオ》(1896年)や《メディア》(1898年)、《ハムレット》(1899年)、《トスカ》(1899年)など、ベルナールの舞台の宣伝ポスターや商業ポスターを手がけている。ほぼ等身大の崇高な雰囲気のあるポスターは、ミュシャを著名な画家へと押し上げた。
ミュシャはポスターやグラフィックだけではなく、建物の装飾も請け負っていた。代表的なのは、1910年にはチェコの社会や文化の中心として建設された市民会館。その「市長の間」の装飾は、ミュシャが行っている。
円形の天井には、天国の情景や天国を遠くに望みながら集まる人々の姿、それに影を落とすように羽根を広げ飛翔する鷲の姿が描かれた。天井は8つの穹偶よって支えられ、その上部には市民の徳を擬人的に表現したチェコの歴史上の人物像が描かれている。
当時、チェコはオーストリア=ハンガリー帝国の支配下にあったが、1918年、市民会館は、チェコスロヴァキア共和国が独立を宣言した舞台となり、国家の象徴としての役割を果たすこととなる。
ミュシャの晩年の作品は、新生国家チェコスロヴァキアの依頼を受けて制作されたものが多い。紙幣や切手のほかにも、白獅子の国章、警官の制服、聖ヴィート大聖堂のステンドグラスなどもデザインした。そして、この新興国の発展に尽力すべく、切手、紙幣、国章、警官の制服などのデザインは、全て無報酬で手がけた。
ミュシャが自身の故郷や民族を意識して制作した作品の数々。故郷も含めて、小国が独立を求める闘いの時代であった1900年代初頭において、ミュシャはチェコ国民の文化的な支えであり続けたのだろう。チェコスロヴァキア独立10周年記念ポスターを制作するなど、ミュシャは国民の民族自決の長年にわたる闘いに有終の美を飾っている。
最後のゾーンとなる「習作と出版物」では、細やかな装丁や挿絵、カタログの表紙などを展示。ミュシャは晩年、《スラヴ叙事詩》と並行して、スラヴの人々をモデルにした習作やデッサンを数多く描いた。人物の服装や表情に対する彼の注意深い観察は、デッサンの時点で伺うことができる。
国立新美術館 開館 10周年・チェコ文化事業
ミュシャ展
会期:2017年3月8日(水)~6月5日(月)
休館日:毎週火曜日(ただし、5/2(火)は開館)
開館時間:10:00~18:00 ※毎週金曜日4/29~5/7は20:00まで開館。(入場は閉館の30分前まで)
会場:国立新美術館 企画展示室2E
住所:東京都港区六本木7-22-2
■通常券(チケット情報)
観覧料(税込)
当日券 前売/団体
・一 般 1,600円/1,400円
・大学生 1,200円/1,000円
・高校生 800円/600円
※中学生以下無料
※団体は20名以上
※障がい者とその付き添いの方1名は無料(入場の際に障がい者手帳などを提示)
【問い合わせ先】
ハローダイヤル
TEL:03-5777-8600