柚月裕子のベストセラー小説「孤狼の血」が映画化され、映画『孤狼の血』として、2018年5月12日(土)に公開される。
物語の舞台は、昭和63年、暴力団対策法成立直前の広島。所轄署に配属となった日岡秀一は、暴力団との癒着を噂される刑事・大上章吾とともに、金融会社社員失踪事件の捜査を担当するが、失踪事件を発端に対立する暴力団組同士の抗争が激化していくーー。
メガホンを取るのは、『凶悪』、『日本で一番悪い奴ら』で日本映画賞を総嘗めした白石和彌。原作の舞台と同じく広島県・呉市で撮影を行うなど、リアルな世界観を追求しながら、熱き男達の戦いを描く。1973年公開の、暴力団の壮絶な抗争を描いた名作『仁義なき戦い』と警察小説を掛け合わせたような激しいストーリーが、ダイナミックな表現で展開されていく。
『仁義なき戦い』は、1973年に公開されて以来、5作にわたって制作された、深作欣二監督による映画シリーズ。主演は菅原文太が務め、松方弘樹や田中邦衛、渡瀬恒彦など豪華俳優陣が出演している。日本の暴力団抗争史上最も多くの血が流れたといわれる、実際に起きた“広島抗争”を描くノンフィクションだ。『孤狼の血』が生まれる原点となっている。
『孤狼の血』の主人公・大上を演じる役所広司。暴力団と警察の間を行き来しながら大上自らが思い描く捜査を、手段を選ばず遂行していく様子は、アウトローで横暴にすら思える程だ。作品全体に漂う雰囲気もハードボイルドでかなりアグレッシブな内容となっている。多彩な経歴の中で様々な役をこなしてきた俳優・役所広司は、大上を、そして『孤狼の血』という作品をどう捉えているのだろうか。『孤狼の血』にかける思いについて、話を聞いた。
かなりハードボイルドな映画ですが、オファーが来た時にどう思いましたか?
『孤狼の血』の原作も読みましたが、原作の方が映画の脚本よりもっとハードボイルドです。脚本の方は監督のアレンジで、リアルで愛嬌があると申しますか、ちょっと身近で愛すべきキャラクターになったと感じました。
このタイプの映画は久しく見ていないなぁ…僕も演じてこなかったなと思いました。だから、すごく興味がありましたし、監督の過去の作品を見ても勢いがある。監督と初めてお会いした時も、“元気のある日本映画を作りたいんです”とおっしゃるものだから、ぜひ参加したいと思いましたね。
過去にはこのタイプの映画がたくさんあったということでしょうか。
『孤狼の血』のような映画は、僕が若い時には単館系でたくさん上映されていました。その後、ぱったりなくなってしまって、“ああいう映画あったな”というのを忘れかけていた頃にこの映画のお話が来たんです。
日本映画っていうのは予算的に厳しい中でも、熱くて激しい映画を作っていた時期もあって、あの頃の日本映画は豊かな感じがします。もっと色々なものが映画の中にあって面白かった時代だったかもしれないな、と振り返って思いましたね。
“豊か”とは具体的にどのようなことを指していますか?
豊かだったというのは、予算的には全く豊かではなかったのですが、昔の方が色々な個性的な映画監督たちの、バラエティに富んだ作品が多かった気がするんです。
今は、これだったらヒットするだろうっていう視点で作られた作品や、原作など何かから引っ張ってくるような作品が多い。過去には映画が流行を作ってきた時代があったんだと思うんですよね。それを取り戻すには、映画界が頑張ってオリジナルを作らなきゃいけないんじゃないかと思います。
『孤狼の血』の原点となった作品、暴力団抗争を描いた『仁義なき戦い』は、1973年の作品でしたね。
深作欣二監督の『仁義なき戦い』は、僕の青春時代の記憶にも残っています。『仁義なき戦い』に出てくるような男達をかっこいいっていう時代がくると、日本映画の恋愛映画も激しく、暑苦しく、もっと面白くなるんじゃないかなと思うんですけど(笑)。
例えば、男が男らしく活躍する、女の子を命がけで守るとか、そういう物語は、戦争映画なんかで今でもあります。国や家族を守るために戦争に行ってくるというような。
アウトローなやくざ映画も、命を懸けているという点で共通しますよね。生き様や、死との境目にいるところは、ドラマとして描きやすいと思うんです。こういった雰囲気の作品がもうちょっと増えてもいいかなって思います。
『孤狼の血』のような映画や、例えば続編を東映さんが作っていくか分かりませんけど、それはもう大手映画会社としては東映さんしかできないお家芸だと思います(笑)。
過去にはあったタイプの作品でも、今見ると斬新に感じられますね。
暴力的な映画だから抵抗のある女の子が多いかもしれません。でも、映画館から出てくる時に、男の子がちょっと強そうな気分で出てこられる。そんな映画がもうちょっとあっても良いなと思いますし、増えていくと面白いかなと。
あえて女性の方に見て頂くとすると?
男ってバカだな、でもかわいいな、という感じで見てくれると女の人も受け入れやすいかもしれない。馬鹿なことをするんですよ、男はね(笑)。
描かれるような人物像は現代の男の人たちにはない部分なのでしょうか。
今の男に無く、昔の男にはあるという話ではありません。描き方ですね。男の描き方がはっきりしています。なんと言ったらいいのでしょう。僕も映画館に行くんですが、最近は、入っていく自分と、出てくる自分が全然変わっている映画があまりない。見ていない感じがしますね。
僕もこの手の映画を見ると、恥ずかしいけど気分が変わっているんですよね。痰吐いちゃったりとかしちゃいけませんけど(笑)。