「光」「質感」へ関心を持つことになったきっかけは何かあるのでしょうか。
難しいですね。特に無いので……(笑)。
何かかっこいいことを言えたらいいのですが、元々大学時代から、「自分がやらなければいけないテーマ」みたいなものが無いのです。特別な環境で育ったわけでもなく普通に幸せに育ってきたので、自分だけの特別なテーマがずっと無くて。学生の時は、そんなことではダメなのではないか、とも思っていました。
徐々に興味を持っていったということでしょうか。
そうですね。自分が興味のあることを作品にしたりする中で無意識に「質感」を大事にしていることに気付いていきました。学生時代に制作していた版画でも、自分の好きな質感に仕上げたモチーフを撮影してシルクスクリーンで刷った上からさらに、パステルを塗り込んで質感を仕上げるようなプロセスを踏んでいました。
「光」に関しては、昔から写真が好きで、自分の制作の中に取り入れたいな、とは考えていました。写真ってそもそも「光」でできているじゃないですか。レンズを向けた先の反射光だけを取り込む仕組みから、光の在り方や微細な変化が気になり出して、そこから「光」について考えてみようと思ったのです。写真の「光」を取り込むところに、無意識に惹かれていったんでしょうね。
では、写真に関して、具体的に影響を受けたアーティスト、作品は?
マン・レイのレイヨグラフやソラリゼーションの、光を逆転させた滲み方とかの作品は、高校生ぐらいの時に展覧会で見て印象に残っています。それと明治から昭和初期の日本の絵画的なモノクローム写真は、粒子が際立っていて何とも言えない質感があり惹かれています。
今回新作として、初の映像作品を手掛けています。制作に至った理由を教えてください。
写真が好きという話をしておきながら、私には写真の作品が1点もありません。というのは、写真を印刷する「印画紙」の質感に、何か違和感があって。例えば油絵は全て絵の具の、色の粒子でできているけれど「印画紙」の白い部分は「印画紙」でしかない。それで、自分の中で写真という作品形式は違うな、と思うに至りました。
その点で、映像は光のみで構成できるので違和感が無く、すごく良いのです。
今回制作されたのは「ステレオグラム」という立体視の作品ですね。
見えた瞬間、透明な像が浮き出てくるような感覚が欲しくて制作しました。砂嵐のような映像を映している画面よりも手前に像が見えてくる。……光の帯のようなもの。そんな光の塊だけでイメージを作りたかったのです。
「モチーフそのものには興味はない」と話す伊庭は、映像制作にあたっても同じスタンスを取っており、その物語性ではなく質を捉えるために「立体視」の映像作品を制作。無数の粒子が動く砂嵐のような映像を見ていると、左右の視差によって光だけで構成された透明な像が浮かび上がる。
画面と目の間にあるのは、まさに光によって表現された質感だけとなっている。像を捉えるまでに人によってはコツも必要。こう見えるはず、という答えあわせの映像が、背後に映し出されているので、双方見比べながら楽しむのも面白い。
【詳細】
伊庭靖子展 まなざしのあわい Yasuko Iba, A Way of Seeing
会期:2019年7月20日(土)~10月9日(水)
場所:東京都美術館 ギャラリーA・B・C
住所:東京都台東区上野公園8-36
休室日:月曜日、8月13日(火)、9月17日(火)、9月24日(火)
※8月12日(月・休)、9月16日(月・祝)、9月23日(月・祝)は開室
開室時間:9:30~17:30 ※入室は閉室30分前まで
夜間開室:金曜日 9:30~20:00 ※入室は閉室の30分前まで
※ただし、7月26日、8月2日、9日、16日、23日、30日は9:30~21:00
観覧料:一般 800円/団体(20名以上) 600円/65歳以上 500円/大学生・専門学校生 400円
※高校生以下無料
■サマーナイトミュージアム割引
7月26日(金)、8月2日(金)、9日(金)、16日(金)、23日(金)、30日(金)の17:00~21:00は、一般600円、大学生・専門学校生無料(要証明)
※7月20日(土)、21日(日)、8月17日(土)、18日(日)、9月21日(土)、22日(日)は、「家族ふれあいの日」により、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住、2名まで)は、当日一般料金の半額(要証明)
※8月21日(水)、9月16日(月・祝)、18日(水)は「シルバーデー」などにより、65歳以上は無料(要証明)。当日は混雑が予想される。
※10月1日(火)は「都民の日」により、誰でも無料
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳持参者とその付添い(1名まで)は無料(要証明)
※都内の小学・中学・高校生に準ずる者とその引率の教員が学校教育活動として観賞するときは無料(要事前申請)
■アーティスト・トーク
日時:2019年8月3日(土) 11:00~11:45/2019年8月24日(土) 11:00~11:45
登壇者:伊庭靖子
場所:展覧会会場内
※聴講無料。ただし、本展観覧券が必要。
【問い合わせ先】
TEL:03-3823-6921