展覧会「生誕100年 朝倉摂展」が、東京の練馬区立美術館にて、2022年6月26日(日)から8月14日(日)まで開催される。
画家・舞台美術家として活躍した、朝倉摂(あさくら せつ)。彫刻家・朝倉文夫の長女として1922年に生まれ、日本画家としてスタートした朝倉摂は、戦後にキュビスム的な作風へと展開、60年安保闘争の経験後に絵画から距離を置くようになり、舞台美術の世界で活動するようになった。
2014年に朝倉が没するまで、画家時代に制作された作品は、作家自身の意向から公開されることはほとんどなかった。展覧会「生誕100年 朝倉摂展」では、こうした日本画作品44点に加えて、朝倉が手がけた代表的な舞台美術の下絵、挿絵、そして絵本の原画など約200点を4章構成で展示し、朝倉の創作活動の全貌を紹介する。
日本画家の伊東深水に学んだ朝倉は、早くからその才能を認められ、モダンな人物像を清新な表現で描きだした。戦後は、新美術人協会から発展した創造美術を経て、新制作協会で作品を発表、またキュビスムの影響のもとで新しい作風を確立してゆくようになる。第1章では画家としての出発に着目し、初期の代表作である《更紗の部屋》や《歓び》、キュビスムに触発された大胆な構図で女性裸体を描いた《群像》などを展示する。
1950年代の朝倉の絵画は社会派に接近し、戦後たくましく働く母親や貧しい子どもたちの姿に着目するようになった。作風は、ベン・シャーンやベルナール・ビュフェに影響を受けた、不安や虚無感を感じさせる黒く厳しい線描が特徴である。第2章では、社会派の色合いが強く感じられる《働く人》や、1959年にウィーン青年学生平和友好祭に参加してそのステージに触発されて手がけた作品《黒人歌手ポール・ロブソン》などを通して、朝倉の日本画と前衛性に光をあててゆく。
60年安保運動に傾倒した朝倉は、この連帯の経験から、制作や評価が個人に帰される画家の在り方に限界を感じ、舞台美術を活動の中心へと移してゆく。日本画の枠組みに疑問を持ち、社会的なテーマでの制作をしてきた朝倉にとって、演劇にも携わることは、ジャンルに囚われずに創作活動を行う姿勢を反映するものだといえる。そして、1970年には所属していた新制作を退会し、舞台美術に専念することになる。第3章では、蜷川幸雄演出の『ハムレット』や『にごり江』など、朝倉による舞台美術の世界を紹介する。
朝倉はまた、多くの絵本や小説の挿絵も手がけている。絵本の仕事が増え、画材や手法が多様化していった1960年代後半は、朝倉の活動の中心が日本画から舞台美術へと移っていった時期でもあり、挿絵とは文章に書かれない「余白」を造形する作業であり、戯曲と装置との関係に似ているとも自ら語っている。第4章では、松本清張の連載小説『砂の器』挿絵原画や、絵本の分野でも一定の評価を得ることになった大佛次郎『スイッチョねこ』など、朝倉の挿絵や絵本の仕事を紹介する。
展覧会「生誕100年 朝倉摂展」
会期:2022年6月26日(日)〜8月14日(日) 会期中に一部展示替えあり
会場:練馬区立美術館
住所:東京都練馬区貫井1-36-16
開館時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで)
休館日:月曜日(7月18日(月・祝)は開館)、7月19日(火)
観覧料:一般 1,000円、高校生・大学生・65〜74歳 800円、中学生以下・75 歳以上 無料
※そのほか各種割引制度あり
※一般以外(無料・割引対象者)は、年齢などを確認できるものを持参
【問い合わせ先】
練馬区立美術館
TEL:03-3577-1821