大阪の中之島香雪美術館の開館記念展として「珠玉の村山コレクション~愛し、守り、伝えた~」が開催される。2018年3月21日(水・祝)から2019年2月11日(月・祝)までの1年にわたり、会期を5期に分けて開催する。
朝日新聞社の創業者・村山龍平が収集した、日本や東アジアの古い時代の美術品を収蔵する中之島香雪美術館。開館から1年間は、所蔵品の中から、重要文化財をはじめとする作品300点余りをテーマ別に展示し、「村山コレクション」の全貌を紹介する。
村山龍平と特にゆかりの深い名品を中心に、村山の収集のルーツをたどる。展覧会の冒頭には、桃山時代の作品、美濃「志野茶碗 銘 朝日影」。村山が『新千載和歌集』の歌から名付け、こよなく愛した作品だ。
多くの寺社文化財が流失の危機に瀕した際には保護に乗り出し、村山自身も多くの仏教美術を収集した。いずれも重要文化財の藤原俊成筆「自筆書状 左少弁宛」(鎌倉時代、文治2・1186年)、(伝)周文筆「瀟湘八景図屏風」(室町時代、15世紀)や曽我蕭白筆「鷹図」(江戸時代、18世紀)など著名作家の重要な作品が見受けられる。茶席を飾ったとみられる重要文化財の梁楷筆「布袋図」は、足利将軍家がかつて所蔵していた「東山御物」の一品として知られている。
仏教美術や屏風絵、工芸品を彩る「金」を「金の哲学」「金の装飾」の2章に分けて紹介。
「金の哲学」の章では、仏や神々の神聖さを表現した金の輝きや、異世界を思わせる神秘的な金の彩りなど、金の持つ“清さ”“美しさ”に着目。「稚児大師像」(鎌倉時代、13世紀)は、幼い弘法大師空海が描かれ、繊細に切った截金による円相がその周りを包み込んでいる。柔らかな印象の絵画だ。六曲一双屏風、長谷川等伯筆「柳橋水車図屏風」(江戸時代、16~17世紀)は、スケールの大きい世界観を見せてくれる。
「金の装飾」では、工芸品を彩る優雅な金の装飾にフォーカスを当てる。繊細な金彩の、野々村仁清作の「色絵忍草文茶碗」(江戸時代、17世紀)や堂々とした風格漂う原羊遊斎作「菊蒔絵大棗」(江戸時代、文化14・1817年)など、様々な表現方法の金を見ることができる。その他、伝統を守る作家たちを支援する意図で収集されたと推察される、近代工芸品も登場する。
50歳を過ぎてから茶の世界に入った村山龍平。1902年には、茶の湯の会「十八会」を発足し、精力的に茶道を嗜むと同時に、コレクションの幅も広がっていった。「十八会」の会記や1911年に建てられた茶室「玄庵」の資料、同時期に記録された古書画目録などをもとに、当時のコレクションを紐解いていく。伊賀「耳付花入 銘 慶雲」(桃山時代、17世紀)など、村山が愛した茶道具の展示を行う。また、会期の夏から秋にちなみ、季節の趣を感じる喜多川歌麿筆「月見の母と娘」(江戸時代、19世紀)などの絵画が彩りを添える。
明治初頭、奈良・興福寺の五重塔が売りに出されたことに衝撃を受け、村山は寺社に伝えられた宗教美術に目を向けるようになる。当時の朝日新聞紙面からは、全国の寺社宝物調査や古美術調査に賛同していたことがうかがえる。“「文化財」は「保護」されるべき”だという近代的な考え方に基づいて収集されたコレクションからは、村山の情熱的な意思が伝わってくる。ボストン美術館の収蔵品と一揃えのうちの3幅とみられる「聖徳太子絵伝」(鎌倉時代、13~14世紀)や、重要文化財「薬師如来立像」(平安時代、9世紀)など、見応えのあるラインナップだ。
説話や王朝文学の世界を描いた「物語絵」や、歌人の和歌と肖像を描く「歌仙絵」など、日本美術と関わりの深い、物語とうたをテーマに作品を展示する。物語やうたは、文字だけでなく、絵巻や屏風、色紙など、様々な方法で絵画化され、日本人に愛されてきた。「伊勢物語」「源氏物語」「浦島物語」といった馴染みの深い物語や、百人一首などに関わる作品が登場する。