ここまでは女性の装いを中心に歴史を辿ってきたが、「男の美学」と題した3章では、時代や身分により個性的な装いを身に纏ってきた男性のファッションに着目。豊臣秀吉が所用した「陣羽織 淡茶地獅子模様唐織」のほか、織田信長や徳川家康が着用したとされる衣装を展示する。
第4章では、文明開化を果たした明治期の「モダン」な着物を展示。明治期以降、男性の衣服は洋装化が進んだ一方、女性は第二次世界大戦前まではきものが一般的であった。しかしこの時代にも、産業革命の導入により新たな技法や素材を使用するとともに、アール・デコやキュビズムといった当時の芸術潮流を取り入れたきものが現れるようになる。
なかでも、絹生産の機械化に伴って安価な絹糸が大量生産され、庶民のあいだで広がった“銘仙”は、化学染料による華やかな模様とともに、女性の日常着にかつてない鮮やかなデザインをもたらすこととなる。日常着やちょっとしたお出かけ着として使用されたこれら銘仙には、幾何学的な菊、薔薇やモダンな街並みなどの流行模様があしらわれた。
また、色鮮やかな化学染料は友禅染にも使用され、花や孔雀、異国のモチーフをあしらったきものが階層の高い人びとのあいだで流行した。「振袖 淡紅綸子地宮殿模様」はそうした1着で、淡いピンクの綸子に、宝石を散りばめたシャンデリア、ヨーロッパ宮廷を彷彿とさせる室内装飾を、華やかで深みのある色彩で表現している。
戦後、きものは日常着として着られることは少なくなったものの、現代のグラフィックデザインを応用したきものや、表現媒体の1つとしてきものを選ぶ作家によるきものも現れるようになる。5章「KIMONOの現在(いま)」では、そうした“きものの現在”に焦点。岡本太郎が手がけた、色彩が力強くうねるような「TAROきもの」などを展示する。
久保田一竹は、「光響」と題した連作インスタレーションで“四季”を表現。素材のきらめき、まばゆいばかりの光の階調、秋の紅葉の鮮やかさ、そして雨降る冬の雪山の驚くほどの静謐さなど、光を湛える素材、絞りや色挿しが織りなす見事なきものの表現を目にすることができよう。
展覧会の最後を飾るのは、YOSHIKIが手掛けるヨシキモノ(YOSHIKIMONO)のきものの数々。漫画をコラージュした「MARVEL」、真紅に金色の網目を重ね、さながらドレスのように着こなす「小一松桜」、艶やかなダリアをまとい、アクティブなワンピースへとアレンジした「Dahlia」などは、長い歴史を有するきものが現代にも受け継がれ、今なお変化している途上にあるのだと気付かせてくれる。
本展覧会で音声ガイドを務めるのは、舞台「刀剣乱舞」シリーズや劇団☆新感線「髑髏城の七人」Season月に出演し、舞台をはじめ、映画やテレビなど活躍の場を広げる俳優・鈴木拡樹。
きものを着ていた時代の物語を演じることが多い鈴木は、今回のナビゲーションを通して、「楽しみながらきものについてより詳しく知ることができた」と語り、「普段きものに触れる機会のない人にも、その美しさに触れていただきたい」とコメントしている。
特別展「きもの KIMONO」
会期:2020年6月30日(火)〜8月23日(日)〈事前予約制〉
※当初は2020年4月14日(火)~6月7日(日)の会期を予定していたが、延期しての開催
※休館日や開館時間、入場方法、チケット販売方法、展示替えなどに関しては、決まり次第告知
会場:東京国立博物館 平成館[上野公園]
住所:東京都台東区上野公園13-9
観覧料:一般 1,700円、大学生 1,200円、高校生 900円、中学生以下 無料
※オンラインでの日時指定券の予約が必要
※価格はいずれも税込み
※障がい者とその介護者1名は無料(入館の際に障がい者手帳など提示が必要)
※展覧会関連イベントは中止
※旧会期が記載された購入済みチケットおよび無料観覧券も使用可能、ただしこの場合もオンラインでの「日時指定券」予約が必要
※購入済みチケットの払い戻しも実施
※各種情報の詳細は、公式サイトを確認のこと
※予定は変更となる場合あり
【問い合わせ先】
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)