“都市と美術”をテーマに、2020年に東京の美術館・博物館で開催される展覧会を特集。人や物が集まる“都市”は、豊かなアート文化をはぐくんできた。この記事では、“都市”をキーにした展覧会を取り上げ、会期などの開催情報や展示作品を紹介。絵画や現代美術だけでなく、建築、ファッション、漫画やアニメなどの多彩な視点から、“都市”の魅力にふれてみてはいかがだろう。
東京・アーティゾン美術館の「琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術」は、江戸時代日本の琳派、そして19世紀ヨーロッパの印象派の作品を、“都市文化”という視点から比較・再考する展覧会だ。
琳派は、17世紀以降に日本の伝統都市・京都の町人文化として育まれ、19世紀には幕府が置かれた江戸に引き継がれたことにみるように、都市の美術として発展してきた。一方、19世紀後半のパリを中心に起こった印象派は、近代における“都市”の経験を核に、都市の日常や、都会に対立する自然風景を題材とした。
本展では、俵屋宗達や尾形光琳ら琳派の作品と、マネやモネ、モリゾなどの西洋近代画家の作品約100点を通して、大都市ならではの洗練された感覚の極致を紹介する。
展覧会「琳派と印象派 東西都市文化が生んだ美術」
会期:2020年11月14日(土)〜2021年1月24日(日) ※会期中に展示替えあり
会場:アーティゾン美術館(東京都中央区京橋1-7-2)
東京・国立新美術館の「MANGA都市TOKYO ニッポンのマンガ・アニメ・ゲーム・特撮2020」は、マンガ原画やアニメ制作資料500点超を展示する、国内最大級の漫画の展覧会だ。
関東大震災、東京大空襲、高度経済成長期などに見るように、都市の破壊とそれに続く復興を繰り返し、東京は幾たびとその姿を変えてきた。そしてその中で、人びとは日常の生活を紡ぎだす。本展では、『ゴジラ』や『ヱヴァンゲリヲン』といった都市の破壊や復興を描いた作品に加え、『時をかける少女』など、江戸時代から現代にいたる東京の日常を舞台とした作品を紹介する。
また会場には、「初音ミク」とコラボレートしたコンビニエンスストアのインスタレーションなども。キャラクターは商品のプロモーションやキャンペーンのマスコットとして、人びとの生活へと実際に働きかける。そのように東京は、漫画作品の舞台になるのみならず、登場人物が“現れる”場ともなるのだ。本展では作品世界と現実が交錯する“都市”の魅力に、漫画作品を通してふれることができるだろう。
展覧会「MANGA都市TOKYO ニッポンのマンガ・アニメ・ゲーム・特撮2020」
会期:2020年8月12日(水)~11月3日(火・祝)
会場:国立新美術館(東京都港区六本木7-22-2)
※東京展終了後、大分県立美術館に巡回
東京の姿を変容させた出来事のうち、大正期の1923年に起きた関東大震災は、江戸時代の空気をなおも残す都市東京に甚大な被害を与えた。しかし大規模な復興事業により、“大東京”とも称される近代都市に生まれ変わったのだった。
江戸東京博物館の企画展「大東京の華─都市を彩るモダン文化」では、版画や絵葉書、写真、そしてファッションなどを通して、近代化の幕開けにあたる明治からモダン文化が花開く大正、昭和まで、時代とともに姿を変えていった東京の姿を紹介する。
企画展「大東京の華─都市を彩るモダン文化」
会期:2020年8月25日(火)〜11月23日(月)
会場:江戸東京博物館(東京都墨田区横網1-4-1)
明治末期から大正期にかけて、西洋の様式建築の学習はほとんど達成され、日本独自の建築のあり方が模索されていた。そのなかで起こった分離派建築会は、日本初とされる建築運動であり、明治の様式建築を1930年以降のモダニズム建築へと接続する役割を果たした。
東京・パナソニック汐留美術館の展覧会「分離派建築会100年展 建築は芸術か?」では、分離派建築会が探求した建築の芸術と歩みを紹介。結成最初期の卒業設計、関東大震災からの復興のなかで制作された都市建築、そして建築と通底するモダンデザインが光る家具などを展示する。
展覧会「分離派建築会100年展 建築は芸術か?」
会期:2020年10月10日(土)〜12月15日(火)
会場:パナソニック汐留美術館(東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル 4F)
石元泰博は、モダンデザインをシカゴで学び、厳格な画面構成と造形意識で高く評価された写真家だ。東京都写真美術館の展覧会「生誕100年 石元泰博写真展 生命体としての都市」では、シカゴと東京を往還することで構築された独自の“都市観”をテーマに、後半生の仕事を紹介する。
会場では、モダン建築により形成されてゆく都市を撮影した「シカゴ」シリーズや、都市を生きる人びとをも捉えた「東京」作品群などを展示。また、落ち葉や空き缶、人の流れといったモチーフを集めた「うつろい」シリーズなどからは、生き物のように変容を続ける都市の姿を垣間見られそうだ。
展覧会「生誕100年 石元泰博写真展 生命体としての都市」東京都写真美術館
会期:2020年9月29日(火)〜11月23日(月・祝)
会場:東京都写真美術館(東京都目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内)
東京オペラシティ アートギャラリーでも、展覧会「生誕100年 石元泰博写真展 伝統と近代」を開催。作家活動の前半を軸に、近代都市のみならず日本の伝統建築などにも目を向けてきた石元のまなざしに着目する。
本展では、白井晟一や磯崎新、ミース・ファン・デル・ローエなど、石元と同時代の建築を撮影した作品を総括的に展示。また、シカゴの人びとや街並みの変化を撮り集めた初期作品群や、1953年の来日以降、環境問題を引き起こしつつ近代化を進める東京を撮影した東京写真、そして日本の消費社会を批判的に捉えた1980年代の作品など、近代化の諸相を捉えた作品を目にすることができる。
展覧会「生誕100年 石元泰博写真展 伝統と近代」
会期:2020年10月10日(土)〜12月20日(日)
会場:東京オペラシティ アートギャラリー(東京都新宿区西新宿3-20-2)
戦後日本ではビル建設ブームが起こり、1963年には建築物の規模が“高さ”ではなく“容積”で制限されるようになった結果、建築物の高層化が進んだ。
東京国立博物館 表慶館・国立科学博物館 日本館・国立近現代建築資料館にて開催される展覧会「日本のたてもの ─自然素材を活かす伝統の技と知恵」では、建築模型などを通して、自然素材を活かした日本建築の特徴を古代から現代に至るまで紹介。
そのうち国立科学博物館の会場では、「近代の日本、様式と技術の多様化」をテーマに、巨大化・複雑化する近代建築にフォーカス。日本で最初期の超高層ビルとして知られる「霞が関ビルディング」模型などを通して、日本に出現した新しい都市の姿も紹介する。
展覧会「日本のたてもの ─自然素材を活かす伝統の技と知恵」
・国立科学博物館「近代の日本、様式と技術の多様化」
会期:2020年12月8日(火)〜2021年1月11日(月・祝)
会場:国立科学博物館 日本館(東京都台東区上野公園7-20)
・東京国立博物館「古代から近世、日本建築の成り立ち」
会期:2020年12月24日(木)〜2021年2月21日(日)
会場:東京国立博物館 表慶館(東京都台東区上野公園13-9)
・国立近現代建築資料館「工匠と近代化─大工技術の継承と展開─」
会期:2020年12月10日(木)〜2021年2月21日(日)
会場:国立近現代建築資料館(東京都文京区湯島4-6-15 湯島地方合同庁舎内)
ワタリウム美術館を設計した建築家マリオ・ボッタは、街に豊かさを与える“顔”となるような、大きなファサードをもつ建物を構想した。人びとが通りを行き交い、一歩路地へ入ればそこに暮らす人びともいるように、ワタリウム美術館は“東京”という都市と結びついてきたのだ。
開館30周年を迎えるワタリウム美術館の展覧会「生きている東京 展 アイラブアート15」では、15組の現代アーティストが目にしたこの30年から、“東京”という都市を再考。寺山修司やナムジュン・パイクらのコレクション作品を展示するのみならず、会田誠らゲストアーティストを迎えて、美術が都市にもたらすものを問い直す。
展覧会「生きている東京 展 アイラブアート15」
会期:2020年9月5日(土)〜2021年1月31日(日)
会場:ワタリウム美術館(東京都渋谷区神宮前3-7-6)