展覧会「歌枕 あなたの知らない心の風景」が、東京・六本木のサントリー美術館にて、2022年6月29日(水)から8月28日(日)まで開催される。
歌枕とは、和歌の歴史のなかで培われた特定のイメージを伴う土地や地名である。古来、日本人は自らの思いを自然やさまざまな事物に仮託し、和歌として表現してきた。そうして繰り返し歌に詠まれた土地は、次第に特定のイメージを獲得し、歌人たちによって共有されるようになる。そして、ついには実際の風景を知らなくとも、この歌枕を用いることで自身の思いを表現することができるようになったのだ。
いわば日本人の心の風景となった歌枕は、その後美術とも深く関わりつつ展開してゆくようになる。展覧会「歌枕 あなたの知らない心の風景」では、歌枕の詩的なイメージで描かれた名所絵や、歌枕の意匠で飾られた工芸品などの展示を通して、歌枕の世界を紹介する。
歌枕は、実在の景勝地であるというよりも、歌人のあいだで共有された心の風景であり、和歌のなかだけに存在した想像上の名所とでもいうべきものであった。本展では、伝 紀貫之《寸松庵色紙「ちはやふる」》(重要文化財)をはじめとする平安時代の古筆から歌枕の歴史をたどるとともに、《吉野龍田図》や《武蔵野図屛風》など、歌枕の世界を大画面に描いた屏風絵を紹介する。
歌枕は、本来和歌を読むための地名ではあったものの、早くから美術と深く関わりつつ展開した。たとえば名所絵の歴史は、平安時代初期、屏風絵に対して和歌を詠む「屏風歌」の流行に伴い、やまと絵に歌枕を描いたことに始まるとされる。本展では、伝 姉小路長隆画・伝 藤原家隆賛《鏡山図》をはじめ、名所絵の伝統に基づいて描かれた歌枕を紹介する。
歌枕は、そのイメージや知識によって「居ながらにして名所を知る」ことができたため、実際の風景を目にしなくとも和歌を読むことができるものであった。しかし、それは現地への憧れをかき立てることにもなり、西行法師のように歌枕の旅に出る人びとも現れた。一方、実際に旅をすることが難しい人びとにとっても、歌枕は旅を擬似的に体験させることを可能にするものであった。本展では、与謝蕪村《奥之細道図》(重要文化財)などを展示し、旅と歌枕の関係に光をあてる。
歌枕は、実際の風景よりもその土地を象徴する景物によって表されてきたため、デザイン化されやすい性質を持ち、多くの器物の意匠に取り入れられてきた。なかでも「書く」という行為で和歌とゆかりの深い硯箱では、数多くの名品が伝えられているほか、家具や陶磁器といったさまざまな分野の装飾に歌枕のデザインが用いられている。会場では、《小倉山蒔絵硯箱》(重要文化財)をはじめ、歌枕がデザインされたさまざまな工芸品を紹介する。
展覧会「歌枕 あなたの知らない心の風景」
会期:2022年6月29日(水)〜8月28日(日) 作品保護のため会期中に展示替えあり
会場:サントリー美術館
住所:東京都港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン ガレリア3階
開館時間:10:00〜18:00
※金・土曜日、7月17日(日)、8月10日(水)は20:00まで開館
※いずれも入館は閉館30分前まで
休館日:火曜日(8月23日は18:00まで開館)
入館料:
・当日券=一般 1,500円、大学・高校生 1,000円、中学生以下 無料
・前売券=一般 1,300円、大学・高校生 800円
※サントリー美術館受付、サントリー美術館公式オンラインチケット、ローソン チケット、セブンチケットにて販売
※前売券の販売は展覧会開幕前日まで
※サントリー美術館受付での販売は開館日のみ
※会期や開館時間などは変更となる場合あり(最新情報は美術館ウェブサイトにて確認のこと)
【問い合わせ先】
TEL:03-3479-8600