その例として、《オデュッセウスの帰還》を挙げよう。室内を描いた画面は、やはり幾らか遠近法が歪んでいる。中央にはしかし、ギリシャ神話の英雄オデュッセウスが、確かな量感をもって描かれている。左手の壁には、かつて描いた《バラ色の塔のあるイタリア広場》を彷彿とさせる作品が掛けられる。一方、右手に開いた窓からは、デ・キリコの故郷ギリシャの風景が見える。そして、画面に散りばめられた椅子や洋服ダンスは、過去に自ら描いたモチーフにほかならない。
また、《燃えつきた太陽のある形而上的室内》に描かれた太陽と月は、1930年代の挿絵版画から引いたもの。あるいは、1940〜50年代のデ・キリコがしばしば描いた騎士は、《城への帰還》において、ジグザグの影へと変容する。過去のモチーフや表現手法を解体し、また組み立て直してゆくデ・キリコは、既存のイメージを自在に取り入れたアンディ・ウォーホルから高く評価されるなど、その影響は20世紀美術の広い範囲に及ぶこととなったのだ。
「デ・キリコ展」
会期:2024年4月27日(土)〜8月29日(木)
会場:東京都美術館 企画展示室
住所:東京都台東区上野公園8-36
開室時間:9:30〜17:30(金曜日は20:00閉室)
※入室はいずれも閉室30分前まで
休室日:月曜日(4月29日(月・祝)、5月6日(月・振)、7月8日(月)、8月12日(月・振)は開室)、5月7日(火)、7月9日(火)〜16日(火)
観覧料:一般 2,200円、大学生・専門学校生 1,300円、65歳以上 1,500円、高校生以下 無料(日時指定予約不要)
※土・日曜日、祝日、8月20日(火)以降は日時指定予約制(当日空きがあれば入場可)
※身体障害者手帳、愛の手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、被爆者健康手帳の所持者および付添者(1名まで)は無料(日時指定予約不要)
※高校生、大学生・専門学校生、65歳以上、各種手帳の所持者は、いずれも証明できるものを要提示
※毎月第3土曜日・翌日曜日は「家族ふれあいの日」により、18歳未満の子どもを同伴する保護者(都内在住、2名まで)は一般通常料金の半額(住所のわかるものを要提示。日時指定予約不要。販売は東京都美術館チケットカウンターのみ)
■巡回情報
・神戸会場
会期:2024年9月14日(土)〜12月8日(日)
会場:神戸市立博物館(兵庫県神戸市中央区京町24)
【問い合わせ先】
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
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