モネは20世紀初頭、白内障の兆候や妻の死といった不幸に見舞われ、創作の空白期を経験している。しかし1914年以降には、再び制作意欲を取り戻し、かつて思い描いた装飾画の構想に向けて取り組むようになったのだった。

モネは当初、睡蓮ばかりでなく、池の周りに植えられたさまざまな花々をもモチーフとして考えていたようだ。なかでも、日本風の太鼓橋を取り巻く藤や、岸辺に咲くアガパンサスの花は、重要な位置を占めていたとされる。実際、藤をモチーフとした帯状の装飾画は、「睡蓮」の装飾画の上に設置されることが計画されていたようだ。会場では、現存する8点の藤の習作のうち、もっとも大きく、また明るく伸びやかに描かれた2点を目にすることができる。

睡蓮と水面、「大装飾画」の計画

第3章では、モネによる睡蓮の「大装飾画」計画を紹介。藤やアガパンサスといったモチーフを織り交ぜた装飾画の計画は、最終的には実現することはなかった。モネは、多彩な種類の花々による装飾画の構想からは離れ、睡蓮に着目した装飾画へと向かうことになったのだ。こうして、睡蓮の池を描いた巨大な絵画によって楕円形の部屋の壁面を覆う計画が生まれることになる。

モネが長年にわたって取り組んだ大装飾画の計画は、最終的にパリ・オランジュリー美術館に設置されることになる壁画へと結実した。この過程においてモネは、水面に木々や雲が映る数多くの作品を生みだしてゆくことになる。

会場では、大装飾画の計画をイメージし、楕円形の展示スペースの壁面で「睡蓮」作品の数々を一挙公開。睡蓮が咲き乱れる水面に雲が映る《睡蓮》を筆頭に、二股の枝垂れ柳が緩やかな反射像として現れる《睡蓮、柳の反映》、「大装飾画」の関連作品のうち、生前のモネが唯一売却を認めたという《睡蓮、柳の反映》などが一堂に会する。

これらの「睡蓮」の作品の特徴のひとつは、長辺は2mにも及ぶその大きさ。戸外で描いた習作に基づきつつ、モネはアトリエで巨大な装飾パネルを制作したのである。それは、自然の印象を起点としつつも内面化し、再構成する試みであり、戸外の光景をありのままに、いきいきと描きだす印象派の手法を乗り越えるものでもあったのだ。

“豊かな色彩の世界”晩年の連作

第4章では、モネが晩年に手がけた、色彩豊かな作品に着目。モネは1918年から最晩年にかけて、大装飾画の制作を進めつつ、さまざまな小型の連作を手がけている。そこで描かれたのが、自邸の庭にあるモチーフの数々、たとえば池に架かる日本風の太鼓橋、ばらのアーチを通り抜ける小道などであった。

会場では、「日本の橋」、「枝垂れ柳」、「ばらの小道」、「ばらの庭から見た家」など、モネによる連作の数々を多数のバリエーションで紹介。これらの作品では、モチーフと背景とが渾然一体となるかのような、鮮やかでダイナミックな色彩の世界が繰り広げられている。

このように本展では、「睡蓮」の作品を中心に、モネ晩年の創作の世界を紹介している。水面に木々や花々、雲が映しだされ、実景と反射像が互いに溶けあう、モネならではの世界に浸ることができる展覧会となっている。

展覧会概要

企画展「モネ 睡蓮のとき」
会期：2024年10月5日(土)～2025年2月11日(火・祝)
会場：国立西洋美術館 企画展示室
住所：東京都台東区上野公園7-7
開館時間：9:30〜17:30(金・土曜日は21:00まで)
※入館はいずれも閉館30分前まで
休館日：月曜日(10月14日(月・祝)、11月4日(月・振)、2025年1月13日(月・祝)、2月10日(月)・11日(火・祝)は開館)、10月15日(火)、11月5日(火)、 12月28日(土)〜2025年1月1日(水・祝)、1月14日(火)
観覧料：一般 2,300円、大学生 1,400円、高校生 1,000円
※チケットは、国立西洋美術館(開館日のみ)、オンラインチケット(e-tix)、日テレゼロチケ、ローソンチケット、アソビュー、セブンチケット、ぴあ、イープラスにて販売(手数料がかかる場合あり)
※中学生以下、心身障害者および付添者1名は無料(入館時に学生証または年齢の確認できるもの、障害者手帳を要提示)
※12月12日(木)〜27日(金)、1月2日(木)〜17日(金)は高校生無料観覧日(入館時に学生証を要提示)
※観覧当日にかぎり、本展の観覧券で常設展も観覧可

■巡回情報
・京都会場
会期：2025年3月7日(金)〜6月8日(日)
会場：京都市京セラ美術館(京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124)
・愛知会場
会期：2025年6月21日(土)〜9月15日(月・祝)
会場：豊田市美術館(愛知県豊田市小坂本町8-5-1)

【東京会場の問い合わせ先】
TEL：050-5541-8600(ハローダイヤル)