バブル崩壊後の1990年代、流行は“ストリート”から生まれた。デザイナーよりもむしろ、街ゆく若者が主体となって、裏原系や渋谷系といったファッションを発信したのだ。また、インターネットがいまだ黎明期であった90年代後半には、『FRUiTS』のようなストリートスナップ専門誌やコギャル向けなど、テーマを細分化した雑誌が続々と登場。巧みな着こなしをする読者モデルが流行を牽引したのだった。
そうしたストリートの動向は、2000年代になるとデザイナーの製作の源泉ともなった。原宿を中心に人気を集めた「ゴシック系」や「ロリータ」をはじめ、西洋のファッションを独自に再解釈したスタイルなどが流行し、「Kawaii」カルチャーとして世界にも広がる。会場では、 ベイビー・ザ・スターズ・シャイン・ブライトのワンピースや、ゴスロリファッションを代表する廣岡直人による衣服などを展示する。
2010年代の日本社会は、2011年3月11日の東北大震災とそれに続く原発事故、そして低迷する景気に特徴付けられる。環境負荷と経済負担の少ない「サステナブル」な社会が志向されるとともに、リラックス感あるシンプルな装いや“ていねいな暮らし”が人気を集めることになる。
他方で、インターネットを介した個々人の交流も定着。消費者はウェブを通じてブランドの世界観にふれ、同時にブランドはSNS上の「いいね!」によって、より直接的に反応を見ることができるのだ。そして“大きな”流行源としての街の存在感は影を潜める一方、少数の人びとの共感を呼ぶ“小さな”動向がいくつも沸きたつというように、流行も新たな局面を迎えることとなった。会場では、マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)を筆頭に、いわば衣服の“現在形”にふれることができる。
今やSNSの浸透によって、都市と地方、日本と世界が網目状に、瞬時に繋がるとともに、加速する消費サイクルのなかで「サステナブル」なもの作りはアクチュアリティーを増している。本展の終章では、山縣良和によるリトゥンアフターワーズ(writtenafterwards)のドレスや、“紙と水”に着目して日本人の自然観・宇宙観を再考してきた 「コズミックワンダーと工藝ぱんくす舎」のプロジェクトなどを通して、来たるべき未来のファッションへと思いを馳せることができるのではなかろうか。
島根会場では「ファッション イン ジャパン 1945-2020─流行と社会」展と同時に、特別展示「コズミックワンダーと工藝ぱんくす舎 ノノ かみと布の原郷」も開催。本展示は、日本各地に古くから伝わる“紙と布”を通して、日本各地の多彩な風土や人びとの暮らし、精神性を考察するものだ。
江戸時代中期に木綿が広まる以前、人びとは身近にある草木から糸を作り、布にして、衣服や暮らしの道具としてきた。藤や葛、大麻などの繊維を素材に作られた「自然布」は、それを生みだした地域の文化を色濃く反映しているのだ。
会場では「自然布」に加えて、布の跡が残る縄文時代の土器片、そして「コズミックワンダーと工藝ぱんくす舎」による、手漉き和紙を用いた新作やパフォーマンス、撮り下ろしの映像や写真などを通して、自らが根ざす自然環境に敬意を払いつつ暮らしてきた、古の営みを探る。
自然と人間の関係を再考するこれらの展示からは、先を急ぐように儚く過ぎゆくモードの時間に抗い、深く緩やかに呼吸をする自然の時間に寄り添う価値観がみとめられ、未来のあり方へのヒントを得られるかもしれない。
企画展「ファッション イン ジャパン 1945-2020─流行と社会」
会期:2021年3月20日(土・祝)〜5月16日(日)
会場:島根県立石見美術館 展示室A・D
住所:島根県益田市有明町5-15 島根県芸術文化センター「グラントワ」内
開館時間:9:30〜18:00(展示室への入場は17:30まで)
休館日:火曜日(5月4日(火・祝)は開館)
観覧料:
・前売券 一般 1,000円、大学生 500円、小中高生 200円
・当日券 一般 1,200円(950円)、大学生 600円(450円)、小中高生 300円(250円)
※( )内は20名以上の団体料金
※上記観覧料で、島根会場特別展示「コズミックワンダーと工藝ぱんくす舎 ノノ かみと布の原郷」も観覧可
■島根会場特別展示
「コズミックワンダーと工藝ぱんくす舎 ノノ かみと布の原郷」
会期:2021年3月20日(土・祝)〜5月16日(日)
会場:島根県立石見美術館 展示室C
■「ファッション イン ジャパン 1945-2020─流行と社会」東京展 巡回情報
会期:2021年6月9日(水)~9月6日(月)
会場:国立新美術館 企画展示室1E
住所:東京都港区六本木7-22-2
【問い合わせ先】
島根県立石見美術館
TEL:0856-31-1860 (代表)