セクション「陰翳礼讃」展示風景
「日本ファッション」の30年間の流れをたどる初の大規模な展覧会、「Future Beauty 日本ファッションの未来性」が2012年10月8日(月・祝)まで東京都現代美術館で開催されている。
三宅一生、川久保玲(コム デ ギャルソン)、山本耀司ら、 世界のファッションに大きな影響を与えてきた偉大なデザイナー達を輩出し、今も刺激的なファッションを生み出している「日本ファッション」。本展では、 1978年に設立され、そんな日本のファッションの文化的側面の研究を続けてきた京都服飾文化研究財団のアーカイブより、約100点の作品と貴重な映像や 資料を展示。日本のファッションの真髄とその魅力とは何か、また、現代の私たちと服との関係が今後どのように変化していくのかを探っていく。ロンドン、 ミュンヘンでも開催され、高い評価を受けてきたが、今回は新たに注目され始めた15のブランド・デザイナーの作品が加わり、アップデートされて日本に帰っ てきた。空間デザインを手がけたのはロンドン・ミュンヘン展も手掛けた建築家、藤本壮介。
会場は「日本ファッション」を「陰翳礼讃」、「平面性」、「伝統と革新」、「日常にひそむ物語」の4つのテーマで構成。まず来場者を迎えるのは、1983 年にパリで発表され、世界に「黒の衝撃」を与えたコム デ ギャルソンとヨウジヤマモトの貴重なドレスたち。このセクション1「陰影礼賛」では、空間が薄い布で仕切られ、「今見ているものに集中しながら次のものに 対する予感がかきたてられる(藤本)」ようになっている。また、現代のデザイナーたちが独自のファッションにおける「黒」を解釈した、ジュンヤワタナベと まとふ作品も同時に並ぶ。日本人が古くより美しさを見出してきた暗闇の色、黒をデザイナーたちが解釈し、世界に発信していったことを考えさせられる。黒と いう色の持つ色調表現の豊かさにも注目だ。
左)コム デ ギャルソン「six」、右)セクション「平面性」展示風景
セクション1、2をつなぐ空間では、1980年代のヨウジヤマモトとコム デ ギャルソンのコレクション映像が流れ、それと対峙するように設置されたスクリーンでは、次の世代にあたるジュンヤ ワタナベ、アンダーカバー、アンリアレイジの映像が流れる。その間には、コム デ ギャルソンが80年代に発行していたイメージマガジン「six」はじめカタログやDM、インビテーションなど、ブランドが服以外の形で発信してきた貴重な資料を見ることができる。
セクション2のテーマは「平面性」。着物に象徴される、日本の文化に深く根付いてきた「平面」という概念に着目している。広い空間を活かした展示では、人が着用することで三次元へと変化する二次元デザインの服の特徴を浮かび上がらせた。仮想の壁面を思わせる、作品が天井からつられたコーナーには、ミントデ ザインズの10年分のドレスのアーカイブが並び、他にも本展のために特別に作られた三宅一生の「プリーツ・プリーズ」やアンリアレイジの作品、2010年にスタートし、「デザイン界のオスカー」ともいわれる「デザイン・オブ・ザ・イヤー2012」を受賞した「132 5. ISSEY MIYAKE」も展示されている。
左)コム デ ギャルソン/川久保玲 1997年春夏、右)三宅一生 1970年/1971年
セクション3は「伝統と革新」。日本のデザインの多様性と素材に対する高い美意識に焦点が当てられた。ナイロン・ネットをらせん状に仕立てた立野浩二の独創的なドレスや、テクノ・クチュールを使ったジュンヤ ワタナベのドレス。レディー・ガガが着用したモデルのソマルタの無縫製ニットのドレスと、ノリタカタテハナの靴も。日本の着物を洋服に落とし込んだ作品も、1960年代の森英恵、70年代のケンゾーなどとともに、まとふや栗原たおの作品などが紹介されている。藤本は、これらの作品たちをまとったマネキンを観覧者と同じ高さに配置することで、見る人が、前衛的なファッションと自らが交じり合うような体験ができるようにしたという。
セクション「日常にひそむ物語」展示風景
最後のセクション4のテーマは「日常にひそむ物語」。日本での本展のために新たに加えられたここでは、「クール・ジャパン」を連想させる、アニメキャラクターや、アイドルをモチーフとした、アストロ・ボーイ・バイ・オーヤやビューティ:ビースト、タカノ綾とコラボレーションした滝沢直己。その後、2000年代以降に登場した、新鋭デザイナーたちの作品を紹介。物語性を大切に制作活動を行うアシードン クラウドなど、ショー形式以外の方法で発表したり、東京以外を拠点にしていたり、これまでのファッションの流れとは一線を画す、ユニークなクリエーションを行うデザイナー達の姿勢も目にすることができる。
そして再びセクション1のコム デ ギャルソンやヨウジヤマモトの作品が見えてくるところで、展示は終わる。世界の中で「日本ファッション」の確固たるスタイルを築いた80年代のデザイナー たちから、まるで現代の若きデザイナーたちまでつながるループを表すかのよう。過去と現代、日本ファッションは偉大なDNAを確かに引き継ぎながら進化を遂げてきた。